ボヘミアから京都へ。ペトロフ・ピアノの100年の物語

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チェコの老舗ピアノメーカー、ペトロフ(Petrof)をご存じでしょうか?150年もの歴史をもつこのペトロフは、昔ながらの工作機械を使って手作業にこだわったピアノ製造を続けています。その暖かく優しい音色は、世界中のピアノファンを虜にしています。

2020年11月に、このペトロフ・ピアノを題材にした物語「京都風音ピアノ100年の物語 ~この町で生きている~」が京都新聞出版センターより発刊されました。

今回は、著者の隅垣健さんに寄稿いただきました!ぜひお楽しみください。

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ボヘミアから京都へ。ペトロフ・ピアノの100年の物語

100年前のボヘミアで生まれたピアノが、今も日本の古都・京都で愛され、奏でられている。
そんなピアノがたどってきた長い道のりをテーマにした物語が生まれました。
ピアノが作られたのは1910年のボヘミア地方、フラデツ・クラーロヴェーという町。アントニン・ペトロフが設立したピアノ工場です。
ピアノは華やかなサロンや演奏会での活躍を夢見ますが、そんな折、ヨーロッパ中を巻き込む大戦争が始まってしまいます。ピアノは混乱するヨーロッパから運び出され地球をぐるり日本へ。やがて京都の小さな学校へ寄贈されました。
ピアノは、それぞれの場所、時代ごとに様々な人びとと出会います。そして大正、昭和、平成と、移り変わりゆく100年の時の流れをつぶさに見つめつづけます。カラー挿し絵を随所に配し、若い人には新鮮なファンタジー、年配の方にはどこか懐かしさを感じさせるフィクション作品となっています。

実際に京都に残る古いペトロフピアノがモデルに

この物語はフィクションですが、京都市中京区の旧京都市立明倫小学校(現在は閉校となり、京都芸術センターとなっています)に実際に残っているペトロフ社製のグランドピアノがモデルとなっています。明倫小学校は、大政奉還の翌年1869(明治2)年に創立された、日本最初期の小学校の一つです。
同校の創立50年を祝って、1918(大正7)年に地元の有志が子どもたちのためにピアノを寄贈することになりました。そのとき世にあまたあるピアノブランドの中から選ばれたのが、今の大切に残されているペトロフピアノでした。当時、グランドピアノは家が数軒建てられるほど高価なものだったそうです。

京都の人びとに愛されるペトロフピアノ

約100年前に明倫校に寄贈されて以来、多くの子どもたちの成長を見守り、その歌声に寄りそってきたペトロフピアノ。
同校の卒業生でもある日本画の大家・中村大三郎の代表作『ピアノ』(四曲一隻・屏風画)に描かれているのも、このペトロフピアノです。


明倫小学校は残念ながら1993(平成5)年に閉校となりましたが、同校の校舎は「京都芸術センター」と名を変え、芸術家たちの作品制作や発表の場として生まれ変わりました。そして、そこに残るペトロフピアノを使って、年に数回コンサートが行われ、今も多くの音楽愛好家や地元の人びとを魅了し続けているのです。

「京都風音ピアノ 100年の物語 ~この町で生きている~」の世界

明倫校とペトロフピアノのたどってきた歴史をベースに、新しいエピソードや日本・京都のたどってきた戦前・戦後の歴史を加味して、生まれた物語が「京都風音ピアノ 100年の物語 ~この町で生きている~」です。
ピアノの故郷ボヘミア、そしてチェコがたどってきた100年間の道のりも背景に描かれています。
また全編にわたって、作者によるカラーの挿絵で、ペトロフピアノ、京都、そしてチェコの魅力を伝える内容となっています。
ぜひご一読ください。

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寄稿者プロフィール》
隅垣 健(すみがき・たけし)
1969年京都市生まれ。京都府立洛水高等学校、同志社大学商学部卒業。
2010年、長編「夏は来たりぬ ウィーンの森の物語」で紫式部市民文化賞受賞(宇治市主催)。著書/「八月のサーカス」(2015年)、「エクストレイルと夜の歌」(2016年)、「電車のカタコト」(2018年)。いずれも京都新聞出版センターより刊行。

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いかがだったでしょうか?ピアノがつなぐチェコと日本の縁。優しいイラストも魅力的な一冊です。ぜひお手に取ってみてくださいね!

※ペトロフピアノについては、以前チェコ共和国大使館が掲載した記事もぜひご覧ください!「音楽の国」チェコで親しまれるピアノ PETROF

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この記事を書いた人

チェコセンター東京

チェコセンターは世界3大陸26都市においてチェコ文化の普及につとめているチェコ外務省の外郭団体です。2006年10月にアジアで第1号のチェコセンターとして、駐日チェコ共和国大使館内にチェコセンター東京支局がオープンしました。

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