[インタビューシリーズ]チェコで活躍する日本人第四弾〜バレエダンサー藤井彩嘉さん〜 

  • ブックマーク

劇場の国チェコ。音楽、オペラ、マリオネット、ミュージカル、そしてバレエが、毎日のように劇場で上演されています。 劇場は国民のアイデンティティで、それぞれに歴史があり、多くのチェコ人に愛されています。 

今回はチェコ・プラハのチェコ国立バレエ団でプリンシパルとして活躍する藤井彩嘉さんに、チェコでのバレエダンサーとしての経験、チェコのバレエ文化、そしてチェコでの生活についてお話をお伺いしました。 

写真/ 藤井さん提供

はじめに、これまでの経歴について教えてください。 

大阪府出身です。3歳の時からバレエを始め、中学2年生と3年生の時にニューヨークで開催されたYAGP(Youth America Gran Prix)のファイナルに出場しました。そこで奨学金をもらい、アメリカのバレエアカデミーに留学し、ワシントンDCで高校3年間を過ごしました。高校在学中にスイスのローザンヌ国際バレエコンクールに出場したのがきっかけで、ヨーロッパでのバレエ団に興味を持ちました。高校卒業後、ハンガリーの国立バレエ団に入団し、その2年半後にドイツのシュトゥットガルト・バレエ団に移籍しました。2017年からプラハのチェコ国立バレエ団に所属し、プリンシパルとして踊っています。 

バレエに興味を持たれたきっかけはなんですか? 

3才の時に、母の勧めでバレエ教室に行ったのがバレエをはじめたきっかけです。母は、自分が子どもの頃にバレエをやりたかったけれどできなかったことから、自分の子どもが娘だったら、趣味としてバレエを始めさせてあげようと考えていたそうです。なので物心ついた時からバレエを踊っていますね。 

チェコに来たきっかけはなんですか? 

シュトゥットガルト・バレエ団にいた時のバレエマスター(先生)が、チェコの国立バレエ団の監督になる事が決まっていたので、オーディションを受けたのがきっかけです。 

チェコでの経験の中で、チェコに来てよかったなと思うことはありますか? 

たくさんあります!スタジオがカレル橋の近くにあって、行き帰りなどに綺麗な景色を見たときはチェコに来てよかったなと思います。劇場が街中にあり、チェコ人の誰もが知っているような劇場の舞台で踊っていると思うと、とても誇らしく思います。 

プラハの国民劇場

どのようにしてプリンシパルになるのですか? 

それぞれのバレエ団によってシステムは違いますが、私が所属するチェコ国立バレエ団には階級があります。下から群舞を踊る「コール・ド・バレエ」、群舞や役を踊る「デミソリスト」、ソロや主要な役を踊る「ソリスト」、そして主役級のダンサーでバレエ団の顔となる「ファーストソリスト/プリンシパル」という4つの階級に分かれています。監督が認めればプリンシパルに昇格する事ができます。私も最初はコール・ド・バレエから踊リはじめ、2年前の2021年にプリンシパルに昇格しました。バレエは実力社会なところがあって、在籍数が長ければ絶対にプリンシパルになれるわけではありません。入団してからすぐにプリンシパルになる人もいれば、ずっと群舞を踊っている人もいます。 

公演の役柄は基本的にキャスティングオーディションで決まりますが、監督や脚本家が指名することもあります。 

日本とチェコにおいて、バレエ文化の違いはありますか? 

ヨーロッパでは、バレエをはじめとする劇場のエンターテイメントが昔から親しまれているので、バレエがとても身近で、バレエが好きな人も多いなと感じます。 

日本ではバレエを見に行く人はバレエダンサーや関係者が多いのですが、ヨーロッパではバレエをやっていなくても見に来る人が多いんです。デートでバレエを見にくる人も多いですね。日本ではバレエ公演のチケットが1万円から2万円するのに対し、チェコでは一番安い席で1000円から見る事ができるので気軽に芸術と触れ合う事ができます。 公演回数も違います。日本は年間50公演ほどですが、チェコでは130公演ほど行われています。ドイツやハンガリーでは100公演程度だったので、チェコの方が公演数は多いですね。 

バレエダンサーとしての職業の面では、日本だと新国立劇場バレエ団がありますが、バレエ団のほとんどは民間です。チェコにはプラハだけではなく、各州の州都に国立バレエ団があります。国立バレエ団は、文化省の下で働くので「国家公務員」になります。なのでコロナ禍でも基本給は守られ、安定していたのはありがたかったですね。 

写真/ 藤井さん提供

チェコでの経験の中で直面した課題や文化の違いで大変だったことはありますか? 

バレエ団の人は若く、インターナショナルな環境で育ってきた人が多いので、文化の違いで困ることはあまりないです。強いて言えば、チェコに来たとき、当時はバレエ団にチェコ人が多くて、時々何を言っているのかわからないことがありました。チェコ語は語尾が単語によって変化するんですよ。たとえば、aで終わる単語は、文によってoに変わるんです。だから最初はチェコ人に「Ayaka」ではなく「Ayako」って呼ばれていたのを、自分の名前を間違えられているのだと思っていました(笑)雑誌でバレエの評論をしたときも、記載されていた名前が本名とかけ離れていて衝撃でした(笑) 

チェコとは関係ないのですが、パンデミック中に人生で初めてバレエから離れた時は大変でした。何週間も踊れないと筋肉が衰えてしまうのに、家に居なければなりませんでした。 ロックダウン中の舞台公演はありませんでしたが、チェコテレビでガラの特別公演があったので、家にいた期間は1ヶ月ほどでした。それでも、バレエダンサーにとって1ヶ月は長いので、体の調子を取り戻すのに時間がかかりました。ロックダウン中でもスタジオで練習する事ができ、国立のバレエ団と言うことで、練習中のダンサーは毎週検査を前提に、マスクをつけずにスタジオを利用できるという特別ルールがありました。 

プライベートと仕事のバランスをどのようにとっていますか? 

週末は休みなので、郊外にリフレッシュしに行ったり、友達とカフェに行ったり、料理や掃除をしたりと、プライベートの時間はもちろんあります。基本的にリハーサルや練習は月曜日から土曜日までの10時から18時まで行われ、遅く終わることはないので、夜にゆっくり休むことができます。毎日その時間で練習するわけではなく、舞台のスケジュールや役によって早めに終わることもあります。公演があるときは14時にリハーサルが終わり、開演まで休憩があります。公演は21時や22時に終わるので次の日は休みになります。

チェコでの経験を今後のキャリアにどのように活かして行きたいですか? 

チェコでプリンシパルとして主役を踊れるようになったことが自信になったので、この経験を活かして、今後他のバレエ団に行く事があってもプリンシパルとして踊れるようにしたいです。 

アメリカからハンガリー、ドイツ、チェコと海外経験が豊富ですね。そのチャレンジ精神には何か秘訣があるのでしょうか? 

小さい時から海外で過ごしているので、基本的にどこに行っても適応できる力はあると思います。英語が話せればどこでも生きていけるかなと言うマインドで常にあるので、慣れない国でもチャレンジできたと思います。その国の言葉や文化を学ぶのではなく、あくまでバレエをする事が一番なので、いい意味で先入観がなく物事を見る事ができます。他の国と比べることもないので、行く先々で楽しむことができています。 

チェコを訪れる観光客に、ぜひ見てほしい、またはあまり知られていない観光スポットがあれば教えてください 

プラハには、定番の観光地以外でも素敵な場所がたくさんあります。例えばリエグロヴィ・サディ(Riegrovy sady)は、地元の人がよく行く場所で、綺麗な景色を眺めながら日向ぼっこができます。夏はナープラフカでのんびりするのも良いですね。 

ナープラフカのボートの上にあるバー

もし芸術に興味があったら、劇場に足を運んでみてください。国民劇場や国際歌劇場は見学ツアーもありますが、日本より手頃に芸術鑑賞をすることができるので、せっかくなら公演も見ていてもらいたいです。内装も見る事ができますし、ヨーロッパの文化にも触れる事ができます。 

国民歌劇場 @ Pavel Dosoudil 

チェコの食べ物で特に気に入っているものはありますか? 

メドヴニークと言う蜂蜜のケーキが好きです。おしゃれなカフェよりも、いわゆるチェコの食堂で食べるメドヴニークが一番美味しいと思います(笑) 

スマジェニースィール(フライドチーズ)も日本人が好きな味だと思います。 

最後に、海外でバレエダンサーとして活躍したい人や、若い世代のバレエダンサーに対して、何かアドバイスがあればお願いします。 

日本にいても良いダンサーがたくさんいるので、海外に行くことが必ずしも良いとは言えませんが、海外に行くとバレエだけでなく様々な文化に触れて視野を広げるという意味では良いと思います。また海外で生活することで、日本の良さや魅力を再認識することもできます。今はインターネットがあり、海外に出るハードルも昔ほど高くはないので、チャレンジする価値はあると思います! 


今回は、チェコ国立バレエ団でプリンシパルとして活躍する藤井彩嘉さんにインタビューさせていただきました。 

現在、藤井さんがフェアリーゴッドマザーとして出演している「シンデレラ」がプラハの国民劇場にて公演中です!リハーサルでお忙しい中、インタビューのお時間を作ってくださいました。 

機会のある方は是非、劇場に足を運んでみてください♪ 

藤井さんの情報はこちら

Instagram: @ayakafujiii_ 

  • ブックマーク

この記事を書いた人

西村柚佳

チェコ政府観光局インターン。2020年9月からチェコのプラハに留学中。現地の大学で観光学を学んでいます。