ズリーンZlín ―「今日の夢を明日には現実に」②

  • ブックマーク

バチャの名を冠した映画スタジオ

さて、またまた間が空いてしまって恐縮ですが、トマーシュ・バチャの理想郷を訪ねる旅の3回目です。

トマーシュ・バチャはモノ作りに留まらず、自社の製品をいかに消費者の手に届けるかにも情熱を注ぎました。そして自社の靴のコマーシャルフィルムを制作するために、工場内にスタジオを作ったのです。

バチャは飛行機事故により1932年に亡くなりましたが、死後の1939年、このスタジオは郊外の森のなかに移設され、バチャの名を冠した「フィルム・アトリエ・バチャFilmové ateliéry Baťa」として本格的に稼働。ヨーロッパで最大規模のスタジオとして当初はコマーシャルを中心に、そして徐々に短編、長編を問わずふつうの映画、さらに多くのアニメーションを制作するようになり、ズリーンは映画の町として知られるようになっていったのです。

現在のズリーンと映画

現在、ズリーンでは引き続き映画作りが盛んに行われているほか、毎年、初夏の時期には、300本もの映画が上映される子どもや若者向けの国際映画祭「ZLÍN FILM FESTIVAL」が9日間の日程で開催されており、2020年には第60回の節目の年を迎えます。家族そろって映画三昧が楽しめるとあって、動員数は12万人にものぼるのだとか。

そしてズリーンの地で綿々と受け継がれている映画作りの伝統にふれられるのが、フィルム・アトリエ・バチャの流れを汲む「フィルム・アトリエ・ズリーン」(Zlín Film Office)です。ここには実際の映画制作スタジオはもちろん、ズリーンにおける映画作りの歴史を紹介したミュージアム、そしてさまざまなアクティビティが楽しめるワークショップなどの施設が集まっているのです。

フィルム・アトリエ・ズリーンは広い敷地内に映画スタジオをはじめさまざまな建物が建ち並ぶ。
アクセスはズリーン市街中心部のバスターミナルから、フィルム・スタジオ・ズリーン行きの公共バスに乗って所要10分ほど。
ミュージアムのほかワークショップでさまざまな体験ができる「Filmový uzel Zlín」([URL]https://filmovyuzel.cz)。
フィルム・スタジオ・ズリーンでは、ジュール・ベルヌ作品をアニメ化した1966年公開の映画「The Stolen Airship(チェコ語Ukradená vzducholod)などで知られるアニメ作家カレル・ゼマンの胸像が迎えてくれる。ズリーンの国際映画祭の実行委員長を長く務めた。

人形劇の伝統があるチェコではアニメーションの制作が盛んな土地柄。そして「チェコのアニメーションの母」と呼ばれてだれからも敬愛されているのがヘルミーナ・ティールロヴァーだ。

ズリーンにおける映画文化を語る際に欠かせないのが1932年に完成した「大映画館Velké kino」。ズリーン市街のホテル・モスクワ前にある。バチャの会社が従業員の娯楽のために作らせた映画館で、座席数2580席は当時、欧州最大の映画館と謳われた。現在は惜しくも閉館中。

ズリーンの旅の最後を飾るのは。。。

フィルム・アトリエ・ズリーンを訪れた後は、ズリーン市街地に戻る前に、徒歩すぐのところにある「森の墓地」に足を運びましょう。広大な森がそのまま墓地になっており、1万1500基を超える墓標があちこちに点在する様はなんとも幻想的です。

この墓地は1930年、当時ズリーンの市長を務めていたトマーシュ・バチャの働きかけでできたものです。そしてトマーシュ・バチャをはじめチェコを代表するアニメ作家のヘルミーナ・ティールロヴァー(1900-1993)、カレル・ゼマン(1910-1989)など、ここズリーンを愛した多くの人々が安らかに眠っています。

森の墓地の一角にあるトマーシュ・バチャの墓。

ズリーンでトマーシュ・バチャの足跡をたどったら、再びズリーン中央駅から旅を始めよう!

  • ブックマーク

この記事を書いた人

戸部 勲

毎年ヨーロッパのあちこちの鉄道に乗って取材して、鉄道旅行の楽しさを伝えるムックや書籍を作っている、イカロス出版の編集部員です。
チェコ共和国の旅客鉄道は日本同様、予約なしで気軽に利用できる公共交通手段。ローカル線から長距離列車、高速列車から夜行列車、国際列車まで、さまざまな種類の列車が走っています。
鉄道旅行の魅力は、住人目線で旅ができること。チェコの魅力にはまってリピーターになって、「もっと深くチェコを知りたい」、「もっとディープな旅がしたい」という想いを抑えきれなくなったら、ぜひプラハ本駅から鉄道に飛び乗って、風任せの自由気ままな旅を楽しんでみてはいかがでしょうか。