ベジタリアン料理の最高峰。チェコ産食材の魅力に満ちたフルコースの全貌

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ライフスタイルのダイバーシティーは、食生活も多様化させました。肉も魚も食べる人、野菜だけを食べる人、肉は食べないけれども魚は食べる人など、世の中には様々な食のスタイルがあります。今回はチェコの地元食材をベースにモダンチェコ料理を展開するミシュランガイド認定レストラン「Salabka」の「ベジタリアンコース」を紹介します。

チェコのベジタリアン事情

チェコには多くのベジタリアンがいます。それは、健康や環境に関心を持つ人々が多く、動物の権利や社会問題への意識が高いためと言えるでしょう。

日本ではなかなか手に入らない、肉類を含まないべジタリアンフードや、動物の体内を通っていないヴィーガンフードが、スーパーなどで安価に購入できます。“ベジタリアン”という選択はチェコでは一般的であり、日本のように特別視されることはありません。

その一方でレストランはというと、まだまだ選択肢が限られます。内陸国であるチェコの郷土料理は肉がメインです。ベジタリアンにとって、チェコ料理店で食べられるメニューはサラダかチーズフライといったところでしょう。

チェコ料理以外でベジタリアンメニューを提供するレストランも街中に沢山ありますが、こちらも料理のバリエーションは多くはありません。アラブ料理やバルカン料理から、肉を使用しないメニューを集めて提供しいる店がほとんどです。

Salabkaについて

Salabkaはミシュランガイドに認定されるほどの実力を持つモダンチェコ料理レストランです。“肉”がメインのチェコ料理で、ベジタリアンメニューを提供するというのはとても革新的な挑戦です。

プラハのミシュランレストランの中でもSalabkaは「自然派・着飾らない・身体にやさしい」という表現がよく似合います。ドレスコードも特に無いため、私たちもカジュアルな服装で、ワインヤードの横にあるテラス席で食事をいただきました。4.5ヘクタールのワインヤードに囲まれたレストランからは、プラハの街を一望できます。

今回の目的は「ベジタリアン料理の最高峰を知る」ことだったので、一番高価な約14000円のコースをオーダーしました。今まで何度もベジタリアンレストランに行っていますが、コースで料理をいただくのは生まれて初めての経験でした。

それでは、アートピースようなSalabkaのベジタリアンメニューの全貌をご紹介しましょう。

食前酒

食前酒として提供されるのは、目前に広がるワイン畑で育った葡萄からできたSalabkaオリジナルの白の泡。ミネラルウォーターは、チェコでも知る人ぞ知るKRONDORF(https://krondorf.cz/)の天然湧水。

AMUSE BOUCHES

食事の始まりを演出するためのアミューズブーシュ。順番にサーブされる4品の1口サイズの料理で、食欲・胃・口中を刺激し、コースをいただく準備をします。

まずは、夏らしいスイカをベースに、ハーブやヴァーベナの抽出オイルを垂らしたソフトドリンクから始まります。ヴァーベナには、”美女桜”という愛称があります。

2品目は、カリッとした皮の中に柔らかいグリーンピースが入ったブシェ。上に乗っているレモンムースと合わせて、3つの異なる食感を体験します。

3品目はこちら。複雑な風味のソースが入った、りんご・きゅうり・ディルで出来たゼリーボール。
一般的なチェコ料理は荒削りな味付けが多いのですが、Salabkaは出汁の旨味や素材の味といった、繊細な味のバランス感覚が絶妙です。

そして4品目、最後のアミューズです。チェコのドーナツ「コブリハ」がベースになった洗練された一品。癖のない擦り下ろしチーズのトッピングと共にいただきます。

BREAD
アミューズブーシュで準備を整えたら、3種類の手作りブレッドをいただく時間です。ディップ・バター・ピクルス・ハーブ・塩など、素材ごとの美味しさを感じます。

初めて出会う料理たちに驚かされ続けているところですが、まだまだコースは序盤です。ここからようやく、スターターが始まります。はやる気持ちを抑えてゆっくりとコースを楽しみましょう。

STARTERS
スターターは2種類から選べます。

こちらは、トマト・アーモンド・バジルソースの、華やかに飾られたサラダ。アーティスティックにコーディネートされた一皿からは、シェフの美的感覚と遊び心が溢れています。ステーキのように調理されたトマトに存在感がありました。

もう一種は、薄くカットされロール状に巻かれた茄子が印象的な一皿。出汁がしっかりと染みています。ベルペッパー・パセリオイル・ハーブ・羊チーズムースの地産食材を組み合わせ、モダンチェコ ベジタリアンとして昇華させています。

MAIN COURSES
そしてこちらがベジタリアンコースのメイン、キノコをふんだんに使用した一皿です。ひと目見ただけでは何なのか分かりません。
キノコの旨味を濃縮させたゼリーの下に、チェコの代表的なキノコLiškaがふんだんに隠れています(Liška:リーシュカ。色に由来し、チェコ語で”キツネ”の意味がある。日本語名はアンズタケ)。じゃがいもや玉ねぎと一緒に炒められ、上にはベアルネーゼソース(オランダソースとも言われるフレンチ料理でよく使われるソース)が盛られています。
クリーミーなソースにも引けを取らないキノコの濃厚な味に驚きを覚える、チェコのキノコのUMAMIを堪能できるメインディッシュでした。

CHEESES
メインディッシュの後はチーズです。自慢のチェコチーズ4種盛りを、ナッツ・スナック・Salabkaグレープジャムと一緒にいただきます。
通常のコース料理だと「メインが終わり一息つきたい」ところですが、ベジタリアンのコース料理だと“食べ疲れがない”という興味深い発見がありました。

PRE DESSERT
ルバーブ(チェコ語でルバルボラ)という甘い野菜を使ったサイダーとミントのシャーベット。プチフルールには、濃厚な料理をいただいた後に、口の中をさっぱりさせる役割があります。自然の甘味や、食材が持つ食感の幅に感動します。そして何より、シェフが楽しんで食材と向き合っていることが伝わってきます。

DESSERT
Salabka自慢のストロベリーアイス。ずっしりとしたクッキーの上には2種類のアイスが重なります。そして、より美しい一皿へと演出するのは、薬草の一種 オキザリス。絶妙なバランスで表現された味の繊細さに驚きました。

PETIT FOURS
デザートの後には、一口サイズのデザート「プチフルール」が待っています。ブラックベリーケーキ・アプリコットボール・シャンティリークリーム・Salabkaプラリネチェコレートコレクションなど、コーヒーと共に最後の時間を楽しませてくれます。

まとめ

以上が、Salabkaのベジタリアンメニューの全貌です。
あまりの奥深い味わいに、今食べている料理が「肉や魚を使っていないベジタリアン料理」であることを、つい忘れそうになりました。野菜の優しい味や繊細で自然な甘みは、日本人の味覚にも合うことでしょう。そして何よりも、彼らの料理にある乳製品の深みは、まさにUMAMIそのものでした。これまではベジタリアンフードについて「肉が入っていない料理」とラベリングしていましたが、「野菜や乳製品の魅力を最大限に活かした結果、肉類を必要としない料理」という見方になりました。

オーナー兼トップシェフのペトル・クンツ氏はベジタリアンコースについて愉しげに語ります。
「国内外のお客様からベジタリアンコースの希望を頻繁にいただきました。私たちの美味しい野菜・果物・乳製品を使って、味覚的にも視覚的にも素晴らしいものを提供するチャレンジをしています。」
その言葉通り料理には、食材それぞれの食感や味を知り尽くし、思考を凝らした調理法が使われています。そして視覚に訴える盛り付けは、アートピースのように美しく演出されていました。工夫に満ちた一品一品をコースとしていただいた経験は、まるでシェフと食材による物語を観劇したような、五感を使った感動体験になりました。

さらに、Salabkaでの時間をより心地よいものにしてくれた理由の一つに、ウエイターとのコミュニケーションがあります。知識豊富な彼らによるメニューの説明のおかげで、一皿一皿にかけられた手間や思いを知ることができます。
プラハに来られたら、ぜひSalabkaのコースを体験してみてください。きっと旅の中での印象的な思い出の一つになることでしょう。


店舗情報
Salabka

・住所: Troja, K Bohnicím 57/2, 171 00 Praha 7
・電話番号: +420 778 019 002
・営業時間: 12:00~15:00、17:30~22:00
・定休日: 日、月、火
・URL: https://www.salabka.cz
・Facebook: https://www.facebook.com/salabka/?fref=ts
・Instagram:https://www.instagram.com/salabka_restaurant/
※要予約です。予約はインターネットからできます。

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アートサバイブログ

アートメディア「アートサバイブログ」です。「クリエイティブに世界をサバイブする」をテーマに、チェコを中心としたヨーロッパのアートシーンや、アーティストサバイブ情報などを発信しています。活動拠点としているプラハは常に新しい魅力に溢れています。みなさんの好奇心を刺激するホットな情報から、ディープなスポットまでお届けできたらと思います。