イラストでファシズムに抵抗したヨゼフ・チャペック――『独裁者のブーツ』を訳して

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弟のカレルとともに「チャペック兄弟」として名高い、ヨゼフ・チャペック。
『こいぬとこねこのおかしな話』(木村有子訳、岩波少年文庫、2017年)で見られるような、可愛らしい絵を描く画家というイメージが強いのではないでしょうか。

しかしこのたび、そんなイメージを覆すような編訳書『独裁者のブーツ イラストは抵抗する』が共和国から刊行されます。
父・増田幸弘さんとともに本書の編訳を行なったのは、スロヴァキア在住の増田集さん。『不自由な自由 自由な不自由 チェコとスロヴァキアのグラフィック・デザイン』(六耀社、2017年)につぐ二冊目の共著となりました。
『プラハのシュタイナー学校』(白水社、2010年)で、チェコ語をゼロから学んだ女の子・ツドイの物語を読んだ人もいるかもしれません。シュタイナー学校に通っていた当時から十数年が経ち、今回二冊目の共著を出版することとなった増田さんに、『独裁者のブーツ』、そして増田さん自身の体験について記事を書いていただきました!

『独裁者のブーツ イラストは抵抗する』(共和国)
版元ドットコム https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784907986636
amazon.co.jp  https://amzn.to/2lybU9f

 

『プラハのシュタイナー学校』と『不自由な自由 自由な不自由 チェコとスロヴァキアのグラフィック・デザイン』

ヨゼフ・チャペックの新たな一面

私の知っているヨゼフ・チャペックはカレル・チャペックの兄で、かわいい絵を描くチェコの絵本作家でした。たぶんそう思っているのは、私だけではないと思います。ですから1937年に『リドヴェー・ノヴィニ』というチェコスロヴァキアの新聞に連載したあとで本にした『独裁者のブーツ(Diktátorské boty)』を、だれが描いたのか知らずに絵だけ見せられたら、ヨゼフの作品だとは思いもしなかったでしょう。

ヨゼフは新聞にイラストを描くことでファシズムと戦いました。強制収容所では詩を書き、気持ちを素直な言葉にしました。今回、父と一緒につくった本『独裁者のブーツ イラストは抵抗する』(共和国)には、困難な時代を生き抜いた、謙虚でまじめなヨゼフが詰まっています。多くの人が知っているチャペック兄弟やチェコとはちょっとちがうと思いますが、ぜひ読んで欲しいと思います。

 

ヨゼフ・チャペックの『独裁者のブーツ』より

現在も残る当時の記録

私はプラハにあるシュタイナー学校の小等部と中等部で学んだあと、ブラチスラヴァに引っ越して美術高校と美大にあたる美術デザイン・アカデミーに進みました。

小中学校の授業では第二次世界大戦について詳しく勉強し、ドキュメンタリー映画も見ました。高校ではポーランドのアウシュビッツ=ビルケナウ絶滅収容所に行きました。授業では正直、それほど興味を示さなかった学生も、実際に収容所を目の当たりにして、言葉を失っていました。行きのバスでははしゃいでいたのに、帰りはぼーっとしたり、なにかを一生懸命考えたり、どうしてこんなことが起きてしまったのだろうとヒソヒソ話をしていました。インスタ映えすると言って、収容所で楽しそうにしている観光客を見て、どうしてそんなことができるのかわからないとも話題になりました。

スタラー・フチュのカレル・チャペック記念館を取材中、庭でヨゼフの本を読む増田さん

『独裁者のブーツ』を訳して

『独裁者のブーツ』でヨゼフが書いた言葉はとてもシンプルなのですが、それでも日常会話ではまず使わない文語がはさみこんであったり、ドイツ語もズデーテン・ドイツ語だったりして一筋縄にはいきません。ヨゼフ・ホラの序文も詩人らしく考えをメタファーにしていて、はじめは魔法の呪文のように感じました。それでもペチンコヴァー先生に質問したり、父と一語一語、何度も何度も読み込んでいくうちにだんだん理解が深まり、自分なりの考えをもてるようになりました。

『独裁者のブーツ』はファシズムという困難な時代の中でヨゼフ・チャペックが命がけで訴えかけた作品です。80年あまり経ったいまでもこの作品は決して色褪せることなく、なにかのきっかけで民主主義が破壊され、自由が奪われかねないことを警告しています。いまこの時代に大切な役割や意味を持つ本だと思います。

 

『独裁者のブーツ イラストは抵抗する』、ヨゼフ・チャペック/増田幸弘+増田集 編訳/共和国刊/菊変判上製184ページ/定価2500円+税/2019年9月30日ごろ発売/ISBN978-4-907986-63-6

 

『独裁者のブーツ イラストは抵抗する』 ※以下、版元ドットコムより抜粋
童話『こいぬとこねこのおかしな話』、エッセイ『園芸家の12カ月』の挿画など弟カレルとのコラボ「チャペック兄弟」としても日本で人気の高いチェコスロヴァキアの画家でエッセイスト、ヨゼフ・チャペック(1887-1945)。彼はナチズムがヨーロッパを席捲する危機的な状況のもとで、自由と平和、そして民主主義のために、独自のユーモラスなタッチで、連作『独裁者のブーツ』をはじめ「反ファシズム」をテーマにした1コマ漫画や諷刺画を描きつづけました。

本書は当時の新聞紙に掲載された貴重な作品を集成し、強制収容所で没するまでの生涯をたどった、日本語版オリジナル編集です。

版元ドットコム https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784907986636
amazon.co.jp  https://amzn.to/2lybU9f

ヨゼフ・チャペック(著)

1887年、オーストリア=ハンガリー帝国下のフルノフに生まれ、1945年、ナチス・ドイツのベルゲン・ベルゼン強制収容所に没する。プラハ工芸美術大学で学んだあと、画家、物語作家、エッセイスト、装幀家として活躍する。弟カレルとの「チャペック兄弟」としても、現在に至るまで世界各国で愛され、高い評価を受けている。
邦訳されたおもな著作に、『ヨゼフ・チャペック エッセイ集』(飯島周訳、平凡社、2018)、『こいぬとこねこのおかしな話』(木村有子訳、岩波少年文庫、2017)、
『チャペックの本棚 ヨゼフ・チャペックの装丁デザイン』(千野栄一訳、ピエブックス、2003)、『園芸家12カ月』(カレルとの共著、小松太郎訳、中公文庫、1996)など多数がある。

 

増田 幸弘(編訳)

1963年、東京に生まれる。フリー編集者・記者。早稲田大学第一文学部卒業。

おもな著書に、『不自由な自由 自由な不自由 チェコとスロヴァキアのグラフィック・デザイン』(共著、六耀社、2017)、『黒いチェコ』(彩流社、2015)、『プラハのシュタイナー学校』(白水社、2010)などがある。

 

増田 集(編訳)

1995年、山口に生まれる。ブラチスラヴァ美術デザインアカデミー(VŠVU)在学中。
共著に、『不自由な自由 自由な不自由 チェコとスロヴァキアのグラフィック・デザイン』(六耀社、2017)がある。

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この記事を書いた人

チェコセンター東京

チェコセンターは世界22ヶ国24都市においてチェコ文化の普及につとめているチェコ外務省の外郭団体です。2006年10月にアジアで第1号のチェコセンターとして、駐日チェコ共和国大使館内にチェコセンター東京支局がオープンしました。

以来、絵画、写真、ガラス工芸、デザインなどの作品の展示や、映画上映会、文学、音楽、経済などのイベントを開催しチェコ文化を紹介するほか、チェコ語教室も開講しています。また、その他のチェコ文化関連イベントへの助言、協力も行っています。

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