チェコを訪れて―CzechImageデザインコンテスト優勝者レポート
昨年2018年は、1918年のチェコスロバキア建国からちょうど100周年の記念の年ということもあり、さまざまなイベントが行われました。そのうちのひとつ、「CzechImage」は、全世界24都市に拠点をもつチェコセンターが企画したもので、チェコ国内外の学生たちに「チェコのイメージ」を作品にしてもらう…というものでした。
チェコセンター東京でも、日本国内の学生から作品を募り、映像作品・ポスター・冊子・ウェブデザインといった様々な手法で表現された「チェコのイメージ」が集まりました。日本での最優秀作となったのは、カレル・チャペックの『郵便屋さんの話』を題材にした河原雪花さん(京都市立芸術大学)の映像作品、『ゆうびんやさんと小さな手紙の話』でした。
作品の一部をご覧頂けます↓
河原さんには、副賞としてプラハ渡航が贈られ、全世界の「CzechImage」の作品を集めた展覧会・関連企画へご参加いただきました。音楽を担当した小林奏子さんと一緒に訪れた“憧れの”チェコ。作品に込めたチェコのイメージと実際に訪れたチェコの印象はいかがだったでしょうか。
おふたりにレポートをいただきました!
チェコを訪れて
「ゆうびんやさんと小さな手紙の話」で賞を頂き訪れたチェコ。
そこは写真や絵、映像で見てずっと憧れていた場所でした。チェコを舞台にしたアニメーションを描くためにネットや本でリサーチを重ねていた私にとって、本物のチェコが目の前に広がっているということは信じられないことでした!映像の音を作っている共作者、小林さんにとってもまた特別な国で、私達二人は最後まで夢のような心地で旅を楽しみました。
絵本、人形、そして妖精の国チェコ
チェコは絵本の国です。共産時代、表現に厳しい規制があった頃、子供向けの絵本や人形劇は唯一規制が少なかったことからたくさんの芸術家たちがこの分野に情熱をそそぎました。
そのため素敵な絵本がたくさんあり、それらを買えることにワクワクしていました。ホテル近くのファーマーズマーケットの古本店でイジートゥルンカの挿絵の絵本を見つけました。この絵本は、私の一番好きと言ってもいい挿絵が入っていたのです!それからさまざまな絵本を見つけては手に入れました。もちろん、私達の作品の元になった、カレルチャペックの「長い長いお医者さんの話」に収録されている「郵便屋さんのお話」も!

チェコでとても面白かったのは、やはりなんといっても人形や妖精など、小さなものへの関心です。
ホテルにいる間私たちはよくチェコのTVを見ていたのですが、ふと始まったドラマはある意味衝撃的でした。実写の人々と人形を交えてのストーリー展開はチェコならではという気がしましたが、その人形の悪役の造形が恐ろしいこと!グリンピースの妖精も全身緑色でなかなか怖く、これを見て育つチェコの子供たち、すごいなぁと面白く見ていました。


それから人形劇!!これを語らずしてこの文章は終われません。私達は「シュペイブル&フルヴィーネク劇場」という人形劇場に足を運びました。そこにはたくさんの子供たちがおめかしをして集まっていて、たくさんの人形が展示されていました。
今思えば私は、展示されている人形や写真など、動いていない、死んだ状態での人形しか知らなかったのです。いよいよ人形劇が始まり、シュペイブルが動き出した瞬間本当に彼らに命が吹き込まれるのを目にしました。それは大きな感動になり、まさに魔法でした。人形たちの愉快な動き、カラカラという音、それぞれにキャラの立つ声(何を言ってるのか分かりませんでしたが、どうやらチェコのクリスマスのお話でした。)凝った舞台セット、子供たちの楽しんでいる様子。なにもかも素晴らしくて、このためにチェコに来たような気さえしました。登場人物のフルヴィーネクを買ってお部屋に飾り、見るたびにその時のことを思い出しています。
チェコでの展示と授賞式
さて今回の目的であるチェコでの展示、授賞式についてです。
チェコセンターはとても素敵なところでした。ギャラリーに入るとたくさんのポスターが飾られていました。そして私達の映像も!
ひたすら部屋にこもって精神力と忍耐力を試されるような制作の日々を送っていたのが、こんなにも遠くまで連れていってくれて、チェコの人達が観てくれるなんて本当に夢のようでした。授賞式では名前を呼ばれ拍手を送られ、とても嬉しかったです。
最後に、このような素晴らしい機会を下さったチェコセンターと審査員の皆様、映画を観てくださった皆様やアドバイスしてくれた先生、家族、そして私の映像に最高の音をつけてくれた小林さん、本当にありがとうございました。
(文責:河原雪花)
チェコとの出会い
私が初めてチェコを知ったのは小学生の頃、家の近所のレンタルビデオショップでたまたま見つけたとってもかわいいアニメ、それがクルテクでした。確かまだVHSだったと思います。クルテクのかわいらしい動きや深みのある色彩が衝撃的で、すぐに大好きになりました。何度も見ていてふと気がついたのは、言葉が使われていないということ。このアニメは世界中のどんな国の人が見ても同じように楽しめるんだ、と気がついた時は子どもながらとても感動したのを覚えています。
6年生の確か夏休みの宿題で、一人一つ好きな国を選んで新聞を書くというものがありました。クラスの中で他の人と同じ国になってはいけないというルールがありましたが、チェコを希望したのは私だけですぐに決まりました。副担任の先生がチェコに行ったことがあると興奮気味に話しかけてくれたとき、クルテクの色彩がチェコのイメージの全てだった私は、本当にこんな国が実在するのかととてもワクワクした記憶があります。
まさかその10年後に、本当にチェコに行ける事になるとは。6年生の自分に教えてあげたいです。
大学生になってからもずっと心の奥にはチェコへの興味がありました。1回生の時、大学の図書館でカレル・ゼマンの作品を鑑賞してからはその気持ちがさらに高まり、2回生の最後に自分の研究分野を決めるとき、私はチェコのアニメーションに決めました。今は4回生で、卒業論文ではチェコでアニメーションを国を代表する産業へと発展させた巨匠イジー・トルンカの人形アニメーションと、その多くの作品の音楽を担当したヴァーツラフ・トロヤンの2人に焦点を当て、映像と音楽の関係について研究しています。

CuBerry
さて、私は映像と音楽のユニット「CuBerry」で音楽を担当しています。このユニットはもともとは映像担当の河原さんが私に短編映画の音楽を依頼してくれたところから始まりました。
今回この「チェコのイメージ」というプロジェクトのお話を聞いた時、こんなに私たちにぴったりなプロジェクトがあるのかと驚きました。2人で絶対にプラハに行きたいと意気込みました。そして本当に最優秀賞を頂くことができました。コマ撮りや編集など大変な作業をやり抜いた河原さんの努力には頭が上がりません。
プラハへ
音楽制作に続いて研究発表などバタバタとこなしているうちに、あっという間にプラハへ発つ日になりました。まだ実感の湧かないまま、海外慣れしていない私は何度も迷いながら、二人で力を合わせてなんとかヴァーツラフ・ハヴェル・プラハ国際空港へとたどり着きました。その日は想像していたより寒さも厳しくなく、空港の目の前にシュコダのタクシーが沢山並んでいて、少しずつ実感が湧いてきました。本当にプラハに来たんだなと、二人で何度も喜びました。
宿泊したホテルのすぐ近くにはファーマーズマーケットがあり、着いてすぐに出かけるとそこには家族連れや犬の散歩をしている人々で賑わっていました。さっそく古本のお店ではイジー・トルンカが挿絵を描いた絵本を見つけ、本当に涙が出そうになるくらい、そこには素敵な時間が流れていました。私たちが日本で慌ただしく生活している間もずっとこの空間はあるのだと思うと、今すぐあの場所へ戻りたいという気持ちになってしまいます…
地下鉄やトラム、バスにも徐々に慣れ、地図にたくさん記録していた行きたい場所へ次々と訪れました。旧市街広場やプラハ城など観光地はもちろん、本屋さんや雑貨屋さん、レストランなどもたくさん巡りました。
絶対に行きたかったカレル・ゼマン博物館や兵士シュヴェイクをモチーフにしたレストラン、そして民宿の方に教えて頂いたミュシャの絵画の展覧会やヴィシェフラット民族墓地も、全て心に深く刻まれました。
中でも一番感動したのは、シュペイブル&フルヴィーネクの人形劇でした。
チェコで人形アニメーションが大きく広まった背景には人形劇があり、ずっと大切にされてきたということは知っていましたが、生き生きとした人形たちの動きや、蝶ネクタイやワンピースを身につけた子どもたちが楽しそうに見入っている様子は本当に胸が熱くなり、チェコ語がほとんど分からない中でも私と河原さん2人はずっと涙ぐんでいました。

授賞式では、拙い英語で他の受賞者の方とお話したり、先生方のお話を聞いたりと、とても貴重な経験でした。自分たちの活動で海外へ行ったのは初めてだったので、もっと英語を話せるようになって、また海外へと活動を広げることが新たな目標となりました。
プラハのいろんな場所を訪れた後で、再度「ゆうびんやさんと小さな手紙の話」を観ると、プラハのお伽の国のような街並みや、何度も目にした郵便局のマークが身近に感じられ、また違った味わいがありました。自分たちの作品を新たな視点から観ることが出来るということは本当に貴重な機会であると感じました。
これからの制作はもちろん、人生においてもきっと、かけがえのない思い出になりました。
こういった機会を頂けたこと、改めて、感謝申し上げます。
(文責:小林奏子)
↓↓おふたりの活動のご紹介↓↓
CuBerry (キューベリー)
2016年より活動開始
SetsukaとKanaco,Yuiko,Sueによる映像と音楽の制作ユニット
アニメーションや実写、VR(バーチャルリアリティ)などを使い、短編映画やMVなどを制作
京都を中心にライブ活動もしている
短編映画はSetsukaこと河原と、Kanacoこと小林が制作している
2016 短編映画『夕暮れの影』が大須にじいろ映画祭2016ショートフィルムコンペティションに入賞
2018 VRのMV『CuBerry』が MEC Award 2018に入賞
2018短編映画『ゆうびんやさんと小さな手紙の話』がCzechImageにて最優秀賞(日本)を受賞
HP:https://cuberry.me
twitter:@_CuBerry