大人も夢中!チェコのおもちゃ
チェコ=かわいい、というイメージをよく耳にしますが、アニメや絵本だけでなく、おもちゃに注目している方も多いはず!
ということで、チェコおもちゃファンならだれもが知っている!?東京・浅草のチェドックザッカストアの谷岡剛史さんにチェコのおもちゃについて書いて頂きました♪
チェコのおもちゃ
チェコのおもちゃと一口に言ってもいろいろなものがあります。ボードゲームなどの紙製のものやブリキでできた乗り物のおもちゃ、ぬいぐるみなどいろいろな素材のおもちゃがありますが、チェコと言えば木のおもちゃという印象の方も多いと思います。
実際それを裏付けるようにチェコには100年以上もの長い歴史を誇るデトアという木のおもちゃをつくる会社があります。もともとは木製のボタンなど装飾品を製造する会社でしたが、その繊細なものづくりの技術を活かして子どものおもちゃを作り始めるようになりました。
木のおもちゃは子どもが最初に手にするおもちゃになるケースも多いので、細心の注意を払いとても丁寧に作られています。デトア社では工場見学ツアーを行っていたり、子ども向けのワークショップも開催されています。品質へのこだわりや自信がなければこういったことはできませんから、100年の伝統は伊達ではありません。

写真提供:チェドックザッカストア

写真提供:チェドックザッカストア

写真提供:チェドックザッカストア
チェコの木のおもちゃといえばもうひとつ、ずいぶん前の話ですがキュビズムデザインのプロダクトを復刻販売している店を訪れた際に、とても斬新な造形の木のおもちゃを見かけました。詳細を尋ねるとなんとラジスラフ・ストゥナルのデザインしたものとのこと。ストゥナルとはグラフィック・デザイン、工業デザインなど様々な分野で活躍した人物ですが1939年からはアメリカに移り住んでいて、そのおもちゃは1930年に制作されたものの復刻品でした。
ストゥナルのブックデザインはいくつも見たことがあったのですが、おもちゃのデザインはその時に初めて見ました。そのアヴァンギャルドなデザイン、子どものおもちゃだからといって、子どもに寄せていかない姿勢に衝撃を受けました。
新素材の登場と斬新なデザイン
斬新なおもちゃのデザインが花開くのが1960年代です。この時代になると、おもちゃの素材としてはこれまで使われることのなかったポリエチレン、PVCといったプラスチック素材が登場します。安価で製造できる上にカラフルで軽量。汚れても簡単に洗えるという利便性の高さから大量生産されるようになりました。
なかでもひときわ目を引くデザインのおもちゃを制作したのがリブシェ・ニクロヴァーという人物です。注目される新素材を使用し、次々と斬新なおもちゃを制作しました。
子どもがまたがって遊ぶことのできる、空気を入れて膨らますビニール人形はバッファローやゾウ、キリンなど様々な種類のものが作られました。これまでまったく馴染みのない素材だったにもかかわらず、イマジネーション豊かで、技術的にも完成度が高いおもちゃが生み出されたことは、奇跡と言っても過言ではありません。

写真提供:チェドックザッカストア
また、ニクロヴァーのアイコン的な存在となっている「アコーディオンキャット」というおもちゃは、今ではコレクターズアイテムとなってしまっています。ネコ以外にもイヌ、ライオン、トラなど数種類が存在します。幾何学的な表現で立体に構成された動物たちは、子どものために作られたことを忘れてしまうほどスタイリッシュです。

写真提供:チェドックザッカストア
プラスチック素材の登場という新しい時代の幕開けに、ニクロヴァーはパイオニア的な作品を数々を生み出しました。しかし1981年、まだ47歳という若さで惜しまれながらこの世を去りました。短期間にこれだけの功績を残した人が、もし存命であればどんな作品が生み出されていただろう、と考えると残念でなりません。
チェコのプラスチックのおもちゃといえばもうひとつ、1977年にイグラーチェックという小さなプラスチック人形が登場します。
レゴやプレイモービルのチェコ版とでもいうべき存在のこの人形は、プラスチック製でありながらどこか素朴で愛らしく、子どもたちに人気でした。
ほんの10年くらい前まではチェコのスーパーやおもちゃ売り場などで普通に売られていたのですが(それこそメイドインチェコスロヴァキア表記の売れ残りもありました)
製造していた会社も倒産してしまい新しいものが作られることはありませんでした。しかし数年前に別の会社が権利を買い取り新たにイグラーチェックを復活させました。すっかり立派になって帰ってきたイグラーチェックですが、ラインナップの面白さなどは70年代の面影をそのまま残しています。

写真提供:チェドックザッカストア
チェコのおもちゃの過去と現在
そしてなんと言っても忘れてはいけないのがチェコと言えばクルテクですよね。
日本でも古くから『もぐらとずぼん』が翻訳出版され、チェコ人なら誰もが知っている人気キャラクターです。まぁそんな説明すらここでは不要かもしれませんが。
チェコのおもちゃ屋や土産物屋に行くとクルテクのぬいぐるみがたくさん販売されています。このぬいぐるみはチェコ第2の都市ブルノにあるモラフスカー・ウーストゥシェドナ社という会社で作られています。

写真提供:チェドックザッカストア
クルテクの最初の製品が制作されたのは1984年と実は意外と最近です。テレビでクルテクを見たデザイナーが商品化したい。と作者のミレルさんに話をしたのがきっかけだそうで、以来良好な関係を築いてきました。ミレルさん監修のもと高いクオリティの商品が制作され国内外でずっと愛され続けています。
社名のモラフスカー・ウーストゥシェドナというのはモラビアン・センターという意味で、ぬいぐるみを作る会社としてスタートしたわけではなく、この地方の特産品であった生地製品を作る町工場を支援する組織として発足しました。
かつては民族衣装の人形などを作り東欧圏のみで販売していたのですが、こういった活動には地方の伝統を保護する意味もありました。
じつはここ最近はチェコ国内の大きなおもちゃ屋に行くと、チェコ製のおもちゃの販売スペースは以前よりも縮小され、日本でも見かけるようなチェコ国外メーカーのスペースが拡張されている光景を目にします。
そのようにいろんな国のおもちゃがひしめき合うなかでプライドを持って作られたモラフスカー社のぬいぐるみたちが売り場に堂々と並んでいるのを見ると、地方の伝統を守るために組織されたモラヴィアン・センターの意思とどこか重なって見えます。
一方でチェコ製のおもちゃにこだわって商品セレクトをしたおもちゃ屋がオープンしたり、昔のデザインのまま復刻されるおもちゃがあったり、当時のデザインや方法論を踏襲して今のデザイナーがプロダクトを作ったりと、明るい話題もあります。
これはおもちゃだけの話ではなく様々な分野で起こっていて、チェコスロヴァキア時代のデザインや生活などをテーマに当時を振り返るような展覧会が開催されたり、スーパーでは昔のパッケージデザインを復刻した商品を販売するイベントを開催したりなど、ここ数年はチェコスロヴァキア時代のデザインを見直すような動きがとても盛んになりました。
これは単なる懐古主義ということではなくチェコ人らしさとでもいうような、妥協せずに良いものを作る精神が根底にあったからこそ、今日の再評価につながっているのだと思います。
当時を知らない今のチェコの若い世代にも、また当時の生活や文化を知ることのなかったチェコ国外でもこれらは新鮮な驚きを持って受け入れられています。
ですから昔の素晴らしいデザインのおもちゃが数多く復刻されたり、かつてのチェコスロヴァキアデザインに影響を受けたプロダクトがさらに生み出されるなどして、日本でも「チェコってすごいね!」という声がもっと聞こえるようになれば嬉しいですね。
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谷岡剛史
2004年にチェドックザッカストアを開店。著書に『チェコへ、絵本を探しに』(産業編集センター)『もうひとつのチェコ入門 メイド・イン・チェコスロヴァキアを探す旅』(産業編集センター)がある。
チェドックザッカストア
ČEDOKzakkastore
https://www.cedok.org
チェドックザッカストアは東京、浅草・蔵前エリアにあるチェコ・東欧雑貨店、チェコ絵本専門の古書店です。主にチェコで直接買い付けた商品を販売しています。
東京都台東区駒形1-7-12
営業時間: 12:00 – 19:00
月曜定休(祝日の場合は翌火曜)
<チェコのおもちゃ展が開催中です!>
チェコセンターではおもちゃ展「mini wonders~チェコのおもちゃ 昔と今」が6月22日まで開催中です。その後、新宿区の東京おもちゃ美術館でも開催することが決定しました!
大人も子どもも楽しめる展示ですので、ぜひお越しくださいね!
チェコセンター東京(渋谷区広尾)
会期:開催中~2018年6月22日(金)
開館時間:平日10:00~17:00
http://tokyo.czechcentres.cz/
東京おもちゃ美術館(東京都新宿区)
会期:2018年7月4日(水)~7月17日(火)
開館時間:10:00~16:00
※毎週木曜日は休館日
こども(6ヶ月~小学生) 500円
おとな(中学生以上) 800円
おとなこどもペア券 1,200円
http://goodtoy.org/ttm/