ビールの都プルゼニュ本駅は アール・ヌーヴォー様式の駅舎
ピルスナービールの本場

さて、アール・ヌーヴォー様式のプラハ本駅を満喫したら、その足で西へ、プルゼニュに向かってはいかがでしょうか。
プルゼニュは西ボヘミア地方最大の都市で、チェコ全体としては人口比でプラハ、ブルノ(南モラヴィア地方)、オストラヴァ(北モラヴィア地方)に次ぐ第四の都市。プラハ本駅からは高速列車で約1時間25分、在来線でも1時間45分ほどの所要時間です。
したがってプラハを朝出発すれば午前中に着けるので、プラハ発の日帰り旅行も可能ですが、少なくとも1泊はしたいところ。それくらい見どころが旧市街を中心に集まっています。もちろんビールのタイプを表わす「ピルスナー」はプルゼニュが語源。ピルスナータイプの本場プルゼニュでは、ぜひともプルゼニュ本駅から徒歩すぐの「ピルスナー・ウルクェル醸造所」に立ち寄りたいですね。
またプルゼニュは、チェコ共和国のほぼ西半分のボヘミア地方の、まさに中心に位置しており、プラハではなくプルゼニュを中心に地図を見た場合、プルゼニュ本駅を基点に東西南北に線路が延びています。もしボヘミア地方の町をいくつか訪れる予定なら、プルゼニュを基点に旅程を組むのがおすすめです。
五感を総動員して楽しむ

プラハ本駅からプルゼニュ本駅へは、もし時間に余裕があるのでしたら、あえて時間をかけて、のどかな快速列車の旅を楽しんでみてはいかがでしょうか。
プラハ本駅では発車列車の時刻表のなかから、「R」から始まる列車番号の列車を選んでください。似た列車番号で「Rx」から始まるものもありますが、こちらは「高品質の快速列車」といった位置づけです。
RもRxも、機関車が客車を牽く客車列車。何が違うかというと、Rxの方がRよりも新しい内装になっています。というと、Rでは車内が汚いのではないか、と思われるかもしれませんが、心配ご無用。造りの古さは否めませんが、車内は基本的によく掃除が行き届いており、十分に快適に旅が楽しめるはずです。
そして、なんといってもRをおすすめする理由が、コンパートメントの窓が開けられることなんです。エアコン完備のRxでは、窓が開けられませんが、Rなら窓が開くのです(もちろん他の乗客への配慮は必須ですが)。したがって、空いた車内で、コンパートメントを独占できる状態になったらチャンス到来。窓の上部に付いているレバーを開放し、窓を押し下げると、ボヘミアの大地を渡る風が一気にコンパートメントを満たすように押し寄せてきます!
ガラス越しではなく直接見渡す地平線まで続く草原の緑が目にまぶしく、疾走する列車の走行音が耳に轟き、大自然の甘い香りが鼻腔をくすぐる…そんな五感を刺激する旅は、窓を開け放ったコンパートメント内でのみ味わえるぜいたくな時間なのです。
女性の顔が彩るプルゼニュ本駅

プルゼニュ本駅は高架上の駅。ホームに降り立つと、みごとなアール・ヌーヴォー様式の駅舎が出迎えてくれます。
プルゼニュ本駅の開業は1862年ですが、現在の駅舎は1907年に再建されました。第二次大戦時にはナチス・ドイツの勢力圏にあったプルゼニュをアメリカ空軍が爆撃、駅舎も損傷しましたが、戦後になって往時のままに修復されています。
正面ファサードにはボヘミアのシンボルである2本の尾を持つ獅子が、行き交う人々を見下ろしています。そして駅舎を覆うように10人以上もの女性の顔、顔、顔…。その周囲いは金色の草花が優美に配され、これぞまさにアール・ヌーヴォー様式です。
直線を活かしたスマートなプラハ本駅に比べ、丸みを帯びたプルゼニュ本駅はいかにも優雅な落ち着いた佇まい。駅舎のイメージが、プラハとプルゼニュの街のイメージに重なります。そんな駅舎の横をクラシカルな客車列車が発着する様子は、まさに一幅の絵画のような美しさ。どうぞ心行くまで堪能してください。