祝祭日の雰囲気が楽しめる初秋のミクロフ

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さて、少し間が開いてしまいましたが、ミクロフの続きです。前回の記事では、プラハあるいはブルノから、みなさまをミクロフ駅までお連れしました。今回はいよいよミクロフの中心部を訪れてみたいと思います。

ミクロフではぜひ宿泊を

ミクロフは人口8000人ほどの小さな町、というか村です。なだらかな丘の斜面に旧市街が広がり、その中心には13世紀までさかのぼることのできる美しいミクロフ城がそびえています。旧市街には主に17世紀に建てられたカラフルな建物が並び、まるでおとぎ話の国に迷い込んだような美しさです。

聖三位一体柱が立ち、パステルカラーの建物が並ぶ、旧市街の中心にある石畳の広場。

ミクロフでの観光は、ミクロフ城や当地を所領とした貴族ディートリヒシュテイン家の埋葬所などの史跡巡り、そしてシナゴーグやユダヤ人墓地を訪れてモラヴィア地方におけるユダヤ文化にふれる、さらに海抜363メートルの「聖なる丘」の頂上へのハイキングを楽しむなどさまざまです。なかでも個人的におすすめなのが、ワインをテーマに観光するワインツーリズム。これらをすべてやるには、少なくともミクロフに1泊する必要がありますが、大都市を離れて小さな村に宿をとり、地元のレストランでディナーをとって、ほろ酔い気分で暮れ方の静かな旧市街を散策するのも楽しいものです。

ミクロフはミュシャゆかりの村。1881年から83年にかけて滞在した家は現在、「Tanzberg」というブティックホテル。壁面にはミュシャのモニュメントが飾られ

おすすめは「ファミリー・ワイナリー・ミクロフ」

さて、ミクロフではもちろん、年間を通していつでも地元産ワインを味わうことができますが、ワインを楽しみにミクロフを訪れるなら、おすすめはやはり初秋であるといわねばなりません。

天高く馬肥ゆる秋。ミクロフの周囲に広がる広大なブドウ畑ではちょうどブドウの収穫期を迎え、瑞々しく肥った果実が陽光を浴びながら、摘みとられるときを静かに待っています。

一面のブドウ畑の向こうに「聖なる丘」とミクロフ城が見える。

村にある家族経営のワイナリーではこの時期、ブドウの収穫と搾汁で大忙し。ブドウの果汁が放出する甘い香りがあたり一面に広がり、初秋の特別感、そして祝祭感を強調しているようです。そわそわと落ち着かない、それでいて楽しくてたまらない、さらにはすべてのものに感謝したくなるような、そんな毎年秋の収穫の季節です。そしてその高揚感が最高潮を迎えるのが、毎年9月初旬の週末に盛大に祝われるブドウの収穫祭、その名も「パーラヴァ収穫祭」です。この収穫祭、2018年は通算71回目を迎え、9月7、8、9日の3日間に渡って開催されました。

静かな村がこのときばかりは熱気と興奮に包まれるパーラヴァ収穫祭。この時期のミクロフでは、ワインになりかけのブドウ果汁のブルチャークが思う存分味わえる。(写真◎チェコ政府観光局)

ところでワイン目当てにミクロフを訪ねたとして、まずやりたいのが地元産ワインの試飲です。村の中心部にはミクロフやその周辺で醸されたワインをメインに扱っているワインショップやワイン酒場が軒を連ねていて、気軽に品定めが楽しめます。

ちなみにミクロフのあるオーストリアとの国境に近いエリアに独特の白ワイン用ブドウ品種が、収穫祭のネーミングにもなっているパーラヴァ。名前はミクロフ一帯の丘陵地帯の地名に由来しています。その特徴はほのかな甘みとスパイシーな味わい。香りにも特徴があり、ぜひ現地で味わっていただきたいものです。

ブドウ畑に囲まれたセラードアで試飲を楽しむ至福のひととき。ミクロフ周辺にはサイクリング道路がよく整備され、自転車でワイナリーめぐりを楽しむ人が多い。

ワインショップやワイン酒場をひと通り周ったら、ミクロフ周辺のワイナリーに直接足を運ぶのもよいですね。観光客を受け入れているワイナリーは多くあり、それぞれ趣向を凝らしたセラードアでゆっくりワイン選びが楽しめます。でももし、近郊のワイナリーを訪れる足がないのなら、ミクロフ中心部にある「ファミリー・ワイナリー・ミクロフ」を訪れてみるのがおすすめです。

名前の通り家族経営のワイナリーで、醸造施設を併設したセラードアにはレストランも備わり、自分で選び抜いたとっておきの一本とともに、屋外のテラス席でゆったり食事とワインのマリアージュを楽しめます。またワイナリーに併設の宿泊施設に荷を解けば、朝から晩まで、さらにワイン尽くしのミクロフ滞在が満喫できるのです。ぜひ初秋のミクロフで、ワインツーリズムを楽しんでいただけたらと思います。

家族総出でワイン造りに取り組むファミリー・ワイナリー・ミクロフ。

さて、今回の記事には鉄道は出てきませんでしたが、次回からはまた、鉄道をテーマにした記事に戻りますので、引き続きお付き合いのほど、どうぞよろしくお願いいたします。

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この記事を書いた人

戸部 勲

毎年ヨーロッパのあちこちの鉄道に乗って取材して、鉄道旅行の楽しさを伝えるムックや書籍を作っている、イカロス出版の編集部員です。
チェコ共和国の旅客鉄道は日本同様、予約なしで気軽に利用できる公共交通手段。ローカル線から長距離列車、高速列車から夜行列車、国際列車まで、さまざまな種類の列車が走っています。
鉄道旅行の魅力は、住人目線で旅ができること。チェコの魅力にはまってリピーターになって、「もっと深くチェコを知りたい」、「もっとディープな旅がしたい」という想いを抑えきれなくなったら、ぜひプラハ本駅から鉄道に飛び乗って、風任せの自由気ままな旅を楽しんでみてはいかがでしょうか。