ブルノにある鉄道模型の聖地

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チェコ最大のHOレイアウト

今回は少々、趣向を変えて、ブルノにある鉄道模型が楽しめるスポットをご紹介したいと思います。

ブルノ本駅から徒歩すぐの、地元の人々が買い物に訪れるにぎやかな商店街。その一角に建つ商業ビルの2階には、ミニカーやラジコンカー、鉄道模型などを扱う模型屋さんがひっそりとたたずんでいます。

モデル・ワールド」の入る建物([所在地]Josefská 7, Brno[TEL]+420 776 346 866)。ブルノ本駅からは迷わなければ徒歩5分以内。

一見、なんでもない店構えのお店です。何かとあわただしい旅先であったなら、ひと通り品ぞろえを眺めて掘り出し物があるかチェックし、とくに収穫がないようなら、そのまま立ち去ってしまうことでしょう。でももし後になって、店内のさらに奥の部屋に、チェコ国内最大規模といわれるHOゲージのレイアウトが広がっているのを知ったなら、激しく後悔すること必至なのであります(鉄道ファン限定ではありますが)。

かわいい機関車トーマスの看板が目印。

チェコのお隣のドイツでは鉄道趣味が盛んです。ベルリン動物園駅やベルリン東駅などの主要都市の駅構内では、通りがかった人がコインを入れて自由に運転できるようなレイアウトが、趣味と実益を兼ねて置かれている風景をよく目にします。またドイツ南部ゲッピンゲン(バーデン=ヴュルテンベルク州)に本社のある鉄道模型メーカーのメルクリンは、日本にも多くのコレクターやファンがいますね。

一方、チェコの駅ではついぞ(最大規模のプラハ本駅でも)、そのような景色を見たことがなかったため、てっきりチェコは鉄道趣味が不毛の地なのだろうと思っていました。ところがブルノ市の観光局によると、ブルノ市内に鉄道模型ファンの聖地があるのだとか。それが、この「モデル・ワールド」なのです。

広々とした「モデル・ワールド」のレイアウトに圧倒される。チェコの列車をはじめドイツの列車、フランスのTGV、そしてアメリカ型の貨物列車など多国籍の列車が一堂に会して走行するシーンは圧巻。

必見の美しい夜景モード

15畳ほどの広さの独立した空間には、コの字型に巨大なレイアウトが鎮座しています。
鉄道駅を中心に商店街や家並み、工事現場、丘陵地帯や水量豊富な河川、そして木々の緑が広がり、自動車やトラム、消防車などが散りばめられています。
そんないかにもヨーロッパらしい街並みを縫うようにして、客車列車や高速列車、貨物列車など、約40編成の列車が縦横無尽に行き交っています。

ドイツ鉄道の客車列車が大河を渡る。
蒸気機関車ファンにはたまらない転車台と扇形庫。

来訪者はやはり子供連れの家族が多いですが、そんなファミリーたちに混ざって、「いい年をした」おとなであっても、ここでは心行くまで、うっとり夢見心地の時間を過ごせるのです。さらに20分ごとに、昼から夜へと時間帯が入れ替わる演出もすてきです。

天井は一転して満天の星空に変わり、夜の帳が下りたレイアウトは、街や家の灯りがまばゆく光り、ひと際ロマンティックな空間へと移ろいます。そしてそのなかを、家路につくかのようにひたむきに走り続ける長大編成の旅客列車…。独特の旅情が味わえる夜景は、決して見逃すことができません。

夜行列車の旅情が堪能できる夜景モード。天井が美しい星空に一変する。営業時間は10~18時(月、火曜は休み)。入場料は50Kč。

いつまでもこの世界に浸っていたい――。そんな気持ちにさせてくれる、ミュージアムのような空間の「モデル・ワールド」です。

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この記事を書いた人

戸部 勲

毎年ヨーロッパのあちこちの鉄道に乗って取材して、鉄道旅行の楽しさを伝えるムックや書籍を作っている、イカロス出版の編集部員です。
チェコ共和国の旅客鉄道は日本同様、予約なしで気軽に利用できる公共交通手段。ローカル線から長距離列車、高速列車から夜行列車、国際列車まで、さまざまな種類の列車が走っています。
鉄道旅行の魅力は、住人目線で旅ができること。チェコの魅力にはまってリピーターになって、「もっと深くチェコを知りたい」、「もっとディープな旅がしたい」という想いを抑えきれなくなったら、ぜひプラハ本駅から鉄道に飛び乗って、風任せの自由気ままな旅を楽しんでみてはいかがでしょうか。