[インタビューシリーズ]チェコで活躍する日本人第二弾〜イラストレーター/グラフィックデザイナー  松本沙希さん〜 

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チェコに訪れる人の中には、アートを楽しみにしている方が多いのではないでしょうか? 

チェコはアール・ヌーヴォーの巨匠アルフォンス・ムハを始め、イラストレーターのヨゼフ・ラダや彫刻家のダヴィッド・チェルニーなどさまざまな芸術家を世界に輩出しています。 

そんな芸術の都・チェコのプラハで、イラストレーター/グラフィックデザイナーとして活躍する松本沙希さんに、チェコでのアーティストとしての経験や、チェコのアートシーンについてお話をお伺いしました。 松本さんはチェコ親善アンバサダーでもあるので、チェコについてもたくさんお聞きしました! 

これまでの経歴を教えてください。 

東京農業大学でヨーグルト菌の研究をしていました。卒業後、デザインの専門学校の「桑沢デザイン研究所」に通いながら、デザイン事務所でグラフィックデザイナーとして働いていました。それと同時にNPOのボランティア活動もしていて、その中で外国人と関わる機会が多くなり、海外に興味を持ち始めました。 

その後、イギリス・ロンドンに渡航し、美術大学の修士課程の準備コースに通った後、2013年にチェコのプラハ工芸美術大学(UMPRUM)に入学しました。その後はフリーランスでイラストレーターとグラフィックデザイナーとして活動しています。一時日本に帰国しましたが、プラハに合計で8年ほど住んでいます。 

チェコに来たきっかけはなんですか? 

イギリスにある美術大学のコミュニケーションデザインの修士課程に進学するか考えた時に、イラストレーションやものづくりの方が興味があったので、他の国の選択肢を探し始めました。その時に、チェコのプラハ工芸美術大学(UMPRUM)に英語で入れる学科があることを知ったことがきっかけです。チェコには元々興味があって、日本にいた時からチェコアニメーションフェスティバルに行ったり、チェコのアニメーションを見るのが好きでした。 

日本でのイラストレーター/グラフィックデザイナーとしての経験とチェコでの経験に違いはありますか? 

日本ではイラストレーションよりもグラフィクデザインの仕事がメインだったので、依頼に沿ってデザインするというクライアントワークが多かったのですが、チェコにいる現在は自分の作品を作るのがメインです。 日本にいたときは受け身で仕事をしてきたものが、チェコに来てからは自分のアイディアで制作するようになりました。その代わり、自分が何をやりたいかを考えたり、テーマ探しをすることや、順序立てて作品を作っていくことが大変です。 

日本とチェコでの学校生活の違いはありましたか? 

日本で通っていた学校はグラフィックデザインだったので、イラストレーションとは違うカテゴリですが、チェコの学校の方が自由だった印象です。自分で自由に制作して、それに対して先生がコメントをするというスタイルでした。自分で動かなければ何も起きないので、どのように制作していくかを決めると同時に、印刷方法や製本方法など、あらゆることを全て自分で考えなければなりませんでした。 

UNPRUMでの学生生活 写真/松本さん提供

チェコの文化や歴史にインスパイアされたイラストを制作されたことがありますか?

チェコで制作する中で、スタジオジブリやファイナルファンタジーなどの日本の作品によく含まれているアニミズムに興味があるということに気づき、アニミズム的な考え方とチェコの伝統や文化を融合させた作品をよく制作します。 例えば卒業制作で作った絵本「The Lost Spring」もその一つで、チェコのマソプストを題材にしています。 

「The Lost Spring」

松本さんに影響を与えたチェコのアートテクニックはありますか? 

チェコを含むヨーロッパは、版画の歴史が長く、日本はマンガの歴史が長いためか、主流の色付けの方法が違います。チェコでは版画の技法の一つであるリトグラフを使うイラストレーターが多く、透明紙にモノクロで色ごとの絵を手描きし、それをスキャンしてコンピューター上で色を載せていく、半分デジタル半分アナログのような技法です。日本は絵の縁取りをしてから、その中に色を載せることが多いです。 当初は不思議に思っていましたが、今はリトグラフで製作することが多いです。iPadを使うときも色ごとにレイヤーを分けて描いています。 

リトグラフの作業風景 写真/松本さん提供

チェコと日本のアートシーンに違いはありますか? 

デザインに関しては、日本は広告にすごい力を入れているなという印象があります。美しいパッケージデザインや、季節ごとに変わるデザインは日本ならではだと思います。逆にチェコの広告デザインは少し雑というか、この写真でいいの!?と思うものや、長年使い回しているようなデザインもよくありますね(笑)その分チェコ人は、広告に左右されるというよりは、何が欲しいとか、何がかっこいいとかを自分で判断できる人が多いです。 

イラストレーションが幅広く使われているのは日本ですね。日本ではイラストが広告やマーケティングによく使われますが、チェコではあまり使われません。チェコではイラストは絵本などの読み物で使われるのが主流です。 

チェコではイラストが非常に芸術的に、自由に使われている印象です。実際にチェコで仕事をすると、細かい修正はあまりなく、任されることが多いですね。どちらが良いとは言えませんが、チェコ人のクライアントからは芸術的なものを作りたいという精神が感じられますね。 

チェコにいることで作品をどう見せたいか、どうアプローチしたいか変化がありましたか? 

イラストレーションに関していえば、機能性よりも芸術性と作家性を重視した見せ方をするようになりました。チェコ人のクライアントもその点を重視しています。 

松本さんのクライアントであるプラハのアジアンレストラン「SIA」 写真/松本さん提供

日本とチェコで展覧会を行ったことがあるそうですが、違いなどはありましたか? 

日本では個展ではなくグループ展で参加したので、お客さんの反応は比べられないのですが、日本はギャラリーレンタル料が高いです(笑)その分気合が入っているなという印象です。 チェコは気軽に展覧会を開くことができて、カフェやギャラリーが頻繁にさまざまな展覧会を行っています。市が補助をすることも多いです。 

チェコで行われる年間のグラフィックコンテスト「Grafika Roku」での展示 写真/松本さん提供

チェコで達成したい、やりたいことはありますか? 

チェコの広告でイラストを描きたいです!広告でイラストをあまり使わないチェコに、イラストレーションを広めたいです。他には、自分のイラストを動かしてみたいので、ゲーム・アニメーション系の会社とコラボレーションしてみたいです。

チェコの生活で気に入っていることはありますか?

交通費が安いこと!(笑)カフェに行くのが好きで、プラハはここ数年でカフェが増えたのもあって、よく散策しています。プラハはコンパクトなので、歩いていろいろなところに行けるところも好きです。 どこにでも子供を連れて行っているのもいいなと思います。アートイベントでも、子ども向けのワークショップが開催されているので、大人と同じレベルでアートに触れられる機会が多くあります。 

チェコを訪れる人に、ぜひ見てほしい、またはあまり知られていない観光スポットがあれば教えてください。 

アート関連でいえば、ブルノのデザイン・ビエンナーレ(Design Bienale)です。ブルノのモラヴィア美術館で2年に1回行われているグラフィックデザインの大きな祭典で、世界中から作品が集まリます。 

ハイキングするのもいいですね。個人的にはボヘミアン・スイスとココジーン(Kokořín)が好きです。ボヘミアン・スイスは紅葉が綺麗なので9月がおすすめです。ココジーンはプラハから近く、ハイキングルートがたくさんあるので楽しいですよ。 

もし伝統的なイベントに興味があったら、マソプスト時期のフリンスコがおすすめです。フリンスコの仮装行列はとてもユニークなので、他の都市の仮面行列と比較してみるのも面白いかもしれません。フリンスコ(Hlinsko)の野外博物館も可愛いので是非行ってみてください。 

チェコを訪問するのに最適な時期はいつですか? 

5月と6月です!日が長く、暖かく、あまり混んでいないのと、この時期の日本は梅雨なので。暑すぎず、綺麗なチェコを楽しめる時期です。 

チェコの食べ物や飲み物などチェコで気に入っているものはありますか?

オヴォツネー・クネドリーキが好きです。特にアプリコットのフィリングがお気に入りです。 

具体的ですが、プラクティカ(Praktika)のコブリハとカンティーナ(Kantyna)のビーフカルパッチョも好きです。チェコでは生肉が食べられるのがいいですよね。 

 
 
 
 
 
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最後にこれからチェコを訪問する日本人の留学生や観光客にアドバイスをお願いします。

留学する人に関しては、お金を貯めて準備を怠らないこと。 

観光に来る人は、調子に乗ってビールを飲みすぎないようにすること(笑)ピルスナー・ウルケルなどのチェコビールももちろん良いのですが、ぜひチェコのクラフトビールを試してもらいたいです。私はフロウスト(Chroust)やジホヴェツ(Zichovec)が好きです。 


今回は、イラストレーター/グラフィックデザイナーとして活躍する松本沙希さんにインタビューさせていただきました。 

インタビューの際は実際にスタジオにお邪魔して、作品を見せていただきました。

 松本さんが作り出す作品は、温かく、カラフルで、チェコと日本を融合させたような素敵な世界観がとても可愛かったです。

松本さんの情報はこちら

Instagram: @sakikki.2

Webサイト: https://www.tis-home.com/Matsumoto-Saki/

–観光関係–

Instagram: @sakikki.0

Note: https://note.com/saki220

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この記事を書いた人

西村柚佳

チェコ政府観光局インターン。2020年9月からチェコのプラハに留学中。現地の大学で観光学を学んでいます。