プラハから先のチェコへ鉄道で旅してみませんか?

  • ブックマーク

鉄道乗車こそ旅の目的

町の中心をとうとうと流れるヴルタヴァ(モルダウ)川。

その西岸の丘にそびえる華麗なプラハ城。

そして反対側の東岸には、悠久の歴史を感じさせる石畳の旧市街が広がっている…。

ヴルタヴァ川の西岸にそびえるプラハ城

チェコ共和国への旅といえば、ほとんどの人が真っ先に、首都プラハの美しい風景を思い浮かべることでしょう。プラハはたしかに、何度訪れたとしても、その都度まだ見ぬ顔を見せてくれる、なんともいえずに懐の深い街です。訪れるたびに、いえ、滞在中に想いのままに小路をたどる散策に出るたびごとに、新たな発見が必ずあることでしょう。

でも、プラハをすみずみまで歩いたことに満ち足りて、チェコの旅を終えてしまうのは、あまりにもったいないことといわなくてはなりません。

なぜなら、チェコを旅する醍醐味を真に味わうには、まずひとつにはプラハから先の町や村を訪れて、それらの土地の魅力に直接ふれることが不可欠なのであり、またふたつめには、鉄道を使ってプラハから先のチェコを訪れること、そのこと自体に、あふれんばかりの魅力があるのだと確信するからなのです。

テーマを持った旅に出よう

チェコの国土は日本の5分の1程度と、それほど大きな国ではないかもしれません。

しかし、その六角形をした国内には、個性豊かな町や村がぎっしりと詰まっています。また日本同様に地域色が豊富なので、周遊旅行がとくにおすすめです。少なくともプラハを中心とするボヘミア地方から、ブルノを中心とするモラヴィア地方へ、ぜひ移動してみてください。

プラハ市内を毛細血管のように結んでいるトラム

各地の地ビールをめぐる旅。

アール・ヌーヴォー様式のシンボルといえるアルフォンス・ムシャ(現地語読みでは「ムハ」)ゆかりの地探訪。

ボヘミアとモラヴィアの知られざるワイン産地を訪れる。

各地の路面電車の乗り比べ…

そんなテーマを持った旅も楽しいでしょう。

そしてその際にはなんといっても、ボヘミアとモラヴィアの大地の上を直接走る鉄道を利用すれば、「今、自分はチェコを移動している」という感覚をダイレクトに味わえるとともに、束の間の車内での旅のひとときを、行きずりの地元のチェコ人と共有することで、まるで「暮らすような旅」ができるでしょう。この点で鉄道の旅は、バスなど他の交通手段による旅では味わえない、唯一無二の体験ができることでしょう。

旅客列車のメインは電気機関車が牽引する重厚な客車列車

利便性? それとも旅情?

鉄道の高速化が進んでいる西ヨーロッパでは、一般的にいって、在来線を使ったのんびりした鉄道旅行は楽しみにくくなっているような気がしています。それは、日本を振り返ってみても、容易に実感できることと思います。新幹線が新たに走るようになった区間では、それまで走っていた在来線が第三セクター化されて、運行頻度が縮小されてしまう――そんな景色は日本の各地に見ることができます。

主に西ヨーロッパの国々にもそうした面があり、高速列車の活躍する範囲が広がって利便性が増すのは喜ばしいことではありますが、一方では並行して在来線が切り捨てられたり、夜行列車の運行が廃止されてしまうなど寂しい面もあり、ここ10年ほどでずいぶん鉄道風景が様変わりしました。

昨今のそんな鉄道事情があるなかで、今も昔と変わらず、いかにもヨーロッパらしく、かつ快適で乗り心地のよい鉄道風情が味わえるのがチェコの旅なのです。

ヨーロッパの伝統的なコンパートメント客車。車端の通路に沿って、定員6~8名の個室が並ぶ

もちろんチェコ鉄道も、レイルジェットやスーパーシティ・ペンドリーノといった高速列車を運行していますが、それらを使わずとも、地域間を結ぶ古きよき(そして快適な)快速列車が健在で、きめ細かく国土を網羅しています。そのため、そのときの気分や旅程のゆとり如何によって、「高速列車の利便性」か、あるいは「快速列車の旅情」か、いずれを選ぶかを主体的に悩むという、ぜいたくな楽しみを得ることができるのです。

今こそチェコの鉄道旅行を!

チェコ鉄道の特徴のひとつとして、「座席予約が不要」なことが挙げられます。

そんなことは当たり前ではないかと思われるかもしれませんが、ヨーロッパでは(たとえばスペインやフランスなど)、近郊ローカル線以外の長距離列車は基本的にすべて、全席指定制での運行となることが多く、その場合にはスケジュールをあらかじめ確定しておくとともに、事前に座席指定券を購入しておく必要があります。

愛車とともに鉄道旅行を楽しむのも当たり前に見られる風景

ところがチェコ(やドイツ、スイス、オーストリアなど)では、快速列車はもちろん高速列車のレイルジェットでも座席予約が必須ではありません。そのため、ユーレイルパスなどチェコで有効な鉄道パスを持っていれば、文字通り「次に来た列車に飛び乗る」ことが可能となるのです(スーパーシティ・ペンドリーノは全席指定制での運行)。

もちろん利便性を求める時代の流れに抗えず、当然ながらチェコにも列車の高速化の波は押し寄せており、10年後、あるいは20年後におけるこの地の旅客鉄道事情を予想することは困難です。

ならば、今こそ、チェコを鉄道で周遊し、「機関車が牽引する客車列車」、「旅情あふれるコンパートメント客車」、「特急列車に備えられた『走るレストラン』である食堂車」、そして「プラハから他国への夜を結ぶ国際夜行列車」といった、魅力あふれるチェコの鉄道事情を、ご一緒に心行くまで満喫しようではありませんか!

特急列車には食堂車が編成される。美しい車窓風景を眺めながらチェコ産のビールで喉を潤す至福のひととき。

このブログでは次回以降、ただでさえ魅力あふれるチェコの旅が、さらに何倍にも楽しくなる鉄道旅行の楽しみ方について、ご紹介していきたいと思っています。

どうぞよろしくお願いいたします。

  • ブックマーク

この記事を書いた人

戸部 勲

毎年ヨーロッパのあちこちの鉄道に乗って取材して、鉄道旅行の楽しさを伝えるムックや書籍を作っている、イカロス出版の編集部員です。
チェコ共和国の旅客鉄道は日本同様、予約なしで気軽に利用できる公共交通手段。ローカル線から長距離列車、高速列車から夜行列車、国際列車まで、さまざまな種類の列車が走っています。
鉄道旅行の魅力は、住人目線で旅ができること。チェコの魅力にはまってリピーターになって、「もっと深くチェコを知りたい」、「もっとディープな旅がしたい」という想いを抑えきれなくなったら、ぜひプラハ本駅から鉄道に飛び乗って、風任せの自由気ままな旅を楽しんでみてはいかがでしょうか。