チェコジャズ100年の旅

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チェコは音楽文化の豊かな国として知られていますが、皆さんはどんなチェコ音楽が好きでしょうか?ドヴォジャーク?スメタナ?それともマルタ・クビショヴァー???
今回は、日本ではまだまだあまり知られていないチェコジャズの世界について、チェコの音楽全般にお詳しく、これまでに何度も現地のジャズクラブにも足を運んでいる指田勉さんに寄稿いただきました!

*タイトル画像:写真提供/COTTON CLUB 撮影/ 山路ゆか

チェコジャズ100年の旅

チェコ共和国公式ブログ読者の皆さん、アホイ!
チェコのジャズは今から100年程前1920年代の盛んな文化活動のなかで産声をあげました。

先月のヴィトウシュとヴィクリツキーの公演で初めてチェコのジャズを知った方も多いかもしれませんね。さあ今から彼らの残した録音を軸に最近のジャズから100年をさかのぼって一緒に旅してみませんか?

 

現在からビロード革命まで

ビロード革命後の自由化でヴィクリツキーらの世代と若い世代、帰国した音楽家たちが次々開店するジャズクラブでシーンに活気をもたらしました。そして現在は当時の若手がベテラン世代となり再び盛り上がりを見せています。

イジー・ヴォトルバによる看板が目印の旧市街にあるAghaRTA Jazz Centrum

 

①No Jazz


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さてまず最初はヴィトウシュ。定額配信は世界中の音楽を瞬時に聴くことができ便利ですね。これはCDがなく配信のみでリリースされている音源。チェコのミュージシャンとの共演ですが弓を多用したサウンドはまさにヴィトウシュ。

Moravian Romance

 


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続いてヴィクリツキーとヴィトウシュのデュオ。これは選曲が今回の公演とほぼ同じなのでコットンクラブの雰囲気(↓)を思い出してしまいます。


コットンクラブ東京での演奏 ヴィクリツキー本人のYoutubeチャンネルより

 

③Berenika meets Jazz


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もう一枚ヴィクリツキーを。

俳優として活躍しているベレニカ・コホウトヴァーがヴィクリツキーのトリオをバックに「コケティッシュ」な歌を聴かせます。カレル・ゴットのDotýkat se Hvězdのカヴァーもうれしい選曲!


作曲E.ヴィクリツキー 白鳥

 

Grace & Gratitude


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革命後世代の代表であるKarel Ruzicka(Jr)。新作ではN.Y.のトップミュージシャンをバックに「御恵みと感謝」というタイトルにふさわしいパワフルかつ落ち着きのある演奏を聴くことが出来ます。

⑤Swingin’ with the Hammond Organ


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現在日本で演奏や教育に活躍の土田晴信のスウィンギーな傑作 にもルージィチュカは参加しています。ギターやドラムにもチェコのミュージシャンが参加していてこれも聴き逃すことの出来ない一枚!

正常化時代のジャズ

困難な70年代でさえジャズはさかんに演奏されていました。多くの音楽家が亡命したり活動を制限されましたが国に残った音楽家も幾多の制約を受けながら素晴しい作品を残しました。

 

①Basssaga


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「Bassのパガニーニ」ことフランティシェク・ウフリーシュがヴィクリツキーらをゲストに作り上げた1984年の傑作。私はプラハで実際聴いたのですが技術もフレーズも音色もビート感も最高で本当に素晴らしい魔法のようなコンサートでした。ベース好きのファンにはぜひ聴いてほしい一枚です。彼はまだまだ現役でプラハのクラブには頻繁に出演しています。

「Bassのパガニーニ」ことフランティシェク・ウフリーシュ

 

②Jazzrockova Dilna

1970年代のフュージョンブームはもちろんチェコにもひろがっており、この二枚のLP盤は1975年に開催されたプラハジャズデイズの実況録音とスタジオ録音。第2集の1曲目ではヴィクリツキーのエレクトリックなプレイも炸裂しこれも生で聴きたかったなあと思います。


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プラハの春

60年代はまさしくチェコのポップカルチャーの第二の黄金期。


映画『ホップサイドストーリー』より クラウトガルトネル指揮チェコスロヴァキア放送ダンスオーケストラ

後に亡命してしまう多くの芸術家たちもまだ国内でしのぎを削る時代で残された当時の素晴らしい音楽を聴いているとそれがたとえ自由の制限されていた体制下であったとしても行ってみたいとつい思ってしまいます。当時の録音にヴィトウシュらの若き日の演奏も聴くことが出来ます。

①Československý Jazz


ジョージ・ムラーツ(チェコ語読みイジー・ムラース)作曲


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「チェコスロヴァキアのジャズ1965」
ジャケットデザインはJ.トルンカ。
ヴィトウス 、ムラーツらの若き日の録音。


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「チェコスロヴァキアのジャズ 64」
R.ヴァニェクによる秀逸なジャケット。


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1961年から1967年にかけて毎年会員向けにリリースされた豪華装丁のこのシリーズにはプラハの春の自由へと向かって行く当時のジャズの姿がいきいきと捉えられています。

 

②Docela všední obyčejný den /Vlasta Průchová

 
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プルーホヴァーの過去の録音は30年の沈黙の後1997年になってやっと初めてまとめられた。

 

60年代ヴィトウシュ兄弟とトリオで活動していたヤン・ハマーの母こそ伝説的歌手プルーホヴァー。彼女は戦後すぐに活動を始めチェコのジャズヴォーカルのスタイルを確立しましたが体制にも芸術にも妥協を許さなかった彼女の録音は多く残されませんでした。

 

③Divadlo SEMAFOR

ヴィクリツキーの最新作は「HRAJE SUCHÉHO &ŠLITRA」。このSuchý and Šlitrのコンビこそ60年代のチェコポップカルチャーにおける最重要人物です。

シュリトルはヒティロヴァーの「ひなぎく(spotyfy)(Appelemusic)」をはじめフォルマン、メンツェルらの映画音楽を担当し、イジー・スヒーと組んだセマフォル劇場を拠点に数多くの才能を往来させました。その中にはイレシュ、シュヴァンクマイエル、ユライ・ヘルツ、カレル・ゴット、チェルノチュカー、クラウトガルトネルらもいます。映画やテレビ、演劇、文学、アート、ジャズやロックなどの音楽からなる総合芸術をつくりあげ当時の若者を熱狂させました。

憩いのフランティシュカーンスカー庭園に密かに残る60年代のセマフォル劇場の看板。

 

今年はシュリトルの没後50年、劇場設立60年の記念年でソメロヴァー監督によるドキュメンタリー映画の公開も予定されています。


メンツェル主演 ロハーチ監督の名画 1000本のクラリネットより クラウトガルトネル指揮の楽団

 

 

 

④Eva Olmerová


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チェコジャズ史上最高の女性歌手とされるオルメロヴァー。彼女の破滅的な人生は14歳での両親の離婚と17歳時の秘密警察による激しい尋問による大きな心の傷から始まります。その後も警官への暴行により投獄、音楽活動禁止、飲酒運転事故で再度投獄、向精神薬とアルコール中毒で体を壊し、晩年はヴィクリツキーを伴奏者として活動しましたが既にぼろぼろの体は回復することなく93年に59歳でその生涯を閉じました。

悲劇的な人生と引き換えたソウルフルでブルースに満ちた歌声はこの1stアルバムからも聴こえ涙を誘います。

⑤POEZIE A JAZZ


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1964年から65年にかけて録音された異色の一枚。当時のジャズをバックにチェコ語による詩が朗読され、チェコ語の響きとJazzの響きの思いがけない調和に驚きます。

チェコの音楽がその根底に持つPoezieをあらためて感じることができるのではないでしょうか。

 

戦間期のジャズ

100年前オーストリアから独立する頃 新大陸からジャズがもたらされます。

そしてわずか数年後には一大潮流となってしまいます。R.A.ドヴォルスキー率いるMelody Boysやヴォスコヴェツ&ヴェリフの名優コンビに作曲家ヤロスラフ・イェジェクが加わった解放劇場での舞台や映画から今でも歌い継がれる名曲が次々に産み出されていきました。

 

①V+W PÍSNIČKY


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チェコスロヴァキア第一共和国の華麗なるジャズエイジを牽引したVoskovec Werich Ježekの3人組の傑作群。イェジェクの音楽は現在でもいまだに重要なスタンダードとなり生き続けています。ヴェリフの旧宅はカンパにイェジェクの旧宅は旧市街広場近くに現存しておりそれぞれ博物館として公開されています。

イェジェクが子どもの頃通った視覚支援学校には現在彼の名が冠されている。

 


高齢者支援財団のチャリティーに集まった往年の大スター
歌うはイェジェクの「地上の天国」

②Český JAZZ1920-1960


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戦前のジャズをまとめて聴くことが出来る1965年にリリースされた会員向けLP盤。

20年代からすでにジャズのブームがありナチス支配下でさえこのような活動ができたということはほんと驚きです。

 

③Le Jazz


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当時多くのクラシックの作曲家もジャズの影響下の作品を残していますがマルチヌーも1928年にその名も「Le Jazz」という作品を発表しています。

 

ヴィクリツキーからマルチヌーまで駆け足で旅をしてみました。

いかがだったでしょうか?お気に入りの曲は見つかりましたか?

 

ちょっとした「第一共和国ブーム」のチェコ。私が訪れたときは画家のクプカやデザイナーのポドルスカーの展覧会が開催されていて20年代気分!を満喫しました。 が何より素晴らしかったのは作家映画監督舞台演出家など多才に活躍するオンジェイ・ハヴェルカ&メロディメイカーズのコンサートです。かつて解放劇場があったその場所でお洒落した聴衆たちと一緒に聴く昔のジャズ。それは私を心から幸せな気持ちにさせました。


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それでは最後に現代に戻ってそのハヴェルカの歌を聴きながらお別れです。

メロディメイカーズの公演ポスター。ポスターももちろんレトロ風。

 


ブルノ出身の世界的な名ソプラノ コジェナーとの共演!
こんな楽しい音楽はネットじゃ無理、どうしたって生で聴きたくなってしまいます。
それはきっと素晴らしいイベントになるはずだから♫

 

それでは アホイっ!

指田勉(さしだ・つとむ)
プラハに行った担任教師の自慢話から、高校生の頃に当時のチェコスロヴァキアに興味を抱く。チェコの音楽全般、象徴主義美術、ドルチコルやスデクなどの白黒写真、Skupina42、ペトル・シャバフやヴラディミール・イラーネクなどのユーモアに特に興味を持っている。
2018年チェコ語弁論大会三位入賞。

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この記事を書いた人

チェコセンター東京

チェコセンターは世界3大陸26都市においてチェコ文化の普及につとめているチェコ外務省の外郭団体です。2006年10月にアジアで第1号のチェコセンターとして、駐日チェコ共和国大使館内にチェコセンター東京支局がオープンしました。

以来、絵画、写真、ガラス工芸、デザインなどの作品の展示や、映画上映会、文学、音楽、経済などのイベントを開催しチェコ文化を紹介するほか、チェコ語教室も開講しています。また、その他のチェコ文化関連イベントへの助言、協力も行っています。

イベント情報はニュースレターでも配信していますので、チェコ文化にご興味のある方はぜひウェブサイトからご登録ください。お待ちしております!

担当カテゴリ:文化と歴史を学ぶ