チェコ人形劇のいま Czech Puppetry Now

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チェコに行ったら一度は見てみたい人形劇。
でも、現地でどんな劇場に行けばいいのかわからない、日本だとなかなか見る機会がなくがっかり…ということはありませんか?
そこで今回は、人形劇の研究をされている山口遥子さんに記事を書いていただきました。
チェコ(日本も?)の複数の劇場についてご紹介いただいているほか、記事の最後には人形劇関連のシンポジウムのご案内もありますので、ぜひご一読ください!

(左から、プラハのオルタナティブ・シアター<Alfred ve dvoře>監督のTomáš Procházka氏、筆者、ピルゼンの人形劇場<Divadlo Alfa>監督のJakub Hora氏)

 

こんにちは! わたしは東京藝大で日本とヨーロッパの人形劇の研究をしています。
これまで研究調査でチェコ、ドイツ、オランダ、イタリア、スペイン、ブルガリア、スロヴェニア、リトアニアなどの人形劇研究所・人形劇場・人形劇フェスティバルを訪れましたが、チェコの人形劇は近隣諸国に比べて、圧倒的に「笑い」が多いです!
お客を爆笑させなければ人形劇ではない・・・・・・ と言わんばかり、明るくて面白くて、見ると心がスカッと晴れ晴れするような作品が、チェコにはとりわけ多い印象があります。

 

 

そんな、楽しくてたまらないチェコ人形劇界を代表する劇団のひとつ、Divadlo Alfa(アルファ劇場)にこの春も行ってきました。
見ての通り、アトリエはスケッチでいっぱい!
人形劇界を代表する美術家のイヴァン・ネスヴェダさん(写真右)の頭からは、新作のアイディアあふれ出して止まらないようす。
イヴァンさんは日本文化にも興味があるそう。パソコンの画面に映っているのは日本のコケシ・・・・・・

 

 

ちょうど滞在中に、一つの作品が初日を迎えました。

上演を待つ、いっぱいの子どもたち! 日本と違って、開演10分前、5分前、直前、とベルが鳴る度に「ワーーーッ」とみんなで拍手をするのが素敵な習慣。

チェコでは保育園や学校の遠足で「劇場」へ出かける頻度がとても多いそうです。近年は美術館や映画館も、子どもたちに団体で足を運んでもらおうと誘致をがんばっているそうですが、いまだに子どもの情操教育と言えば「劇場」。子どもの頃から良い舞台芸術を見る機会がまだまだ少ない日本と比べると、チェコでは子どもの頃から自然と観劇マナーも身につくし、目も肥えるし、いいね・・・・・・

 

劇場の中には、団員向けのバーもあります。初日の後は、団員、批評家、関係者みんなあつまって、ビール片手に語り合う場所に。

なにしろピルスナー・ウルケルのビール工場がすぐそばにあり、スポンサーにもなっていますから、団員のためのビールは山ほど。さらに自家製のスリヴォヴィツェ(度数の高い果実酒)がどこからともなくふるまわれ、ときには論争、ときには愚痴、ときには大笑いになって、初日の夜のパーティーは遅くまで続きます。

 

 

チェコで良い人形劇を見るには?

さて、ユネスコ世界遺産ということで世界的に有名なチェコ人形劇ですが、その割に、実際にどういう劇団があるのか、日本ではよく知られていないようです。たんに商業的な観光客向けの劇場が、ガイドブック等で真っ先に紹介されていることもしばしば!

チェコでほんとうに良い人形劇を見るには、どうしたらよいのでしょうか?

 

まず、チェコの人形劇専門誌『ロウトカーシュ』(Loutkář)が公開している、「人形劇のアドレス帳」を見てみて下さい! プラハのみならず、チェコ中のプロ人形劇団の情報がここに集約されています。人形劇関連の研究拠点の情報も掲載されています。

http://www.loutkar.eu/en/index.php?lca

 

その中でも、いま私が好きなのは次の3劇団。

1)Divadlo bratří Formanů / フォルマン・ブラザーズ(プラハ)
www.formanstheatre.cz

『アマデウス』等の作品で知られるチェコ出身の映画監督、ミロシュ・フォルマンはご存じですね? ミロシュ・フォルマンの二人の息子が、映画ではなく人形劇の世界で活躍しているのです!

人形劇といっても、最近はオブジェクトシアター、フィジカルシアター、サーカスといった他分野の舞台芸術と垣根がなくなってきていますから、フォルマン兄弟の作品も「人形劇」というイメージに収まらないスケールの大きなものです。
私が去年見た『デッドタウン』は、人形劇・演劇・映画・サーカス・レビュー・音楽が一緒になって、見たこともない圧倒的な世界を舞台上に作り出していました。上演後は舞台がそのままアメリカ西部の酒場になって、観客もフォルマン兄弟と一緒にビールを飲むのです。

・2014年の作品『オブルダリウム』上演の様子
https://vimeo.com/111294168

・2017年の作品『デッドタウン』の予告編
https://youtu.be/bU5qlz3DfJg

 

2)studio DAMÚZA / ダムーザ(プラハ)
https://www.damuza.cz/

プラハ芸術アカデミー演劇学部DAMUを卒業したばかりの若者たちの作品を世に出すことを目的に作られた団体。さすが、DAMU人形劇科の人たちは若き天才だらけで驚かされます。大人向け作品も子ども向け作品も、色々とプロデュースしています。

『KAR』(原案はアンナ・カレーニナ)上演の様子。エスノな感じの音楽もいいし、オブジェクトの使い方も最高!
https://youtu.be/ee3s8BhF1gQ

 

3)Divadlo Alfa / アルファ(ピルゼン)
www.divadloalfa.cz

プラハから直行バス1時間ほどで到着するビールの町、ピルゼン。
ここにもすぐれた人形劇場があります。

プラハからのバス停車駅「アルファ劇場」で降りればすぐ。子どものための人形劇を多く作っていますが、大人も楽しめる芸術性の高いものばかり。チェコを代表する演出家トマシュ・ドヴォジャークの作品で、世界中のフェスティバルに招かれています。お子さん連れでチェコ旅行に行かれる際はぜひ寄ってみて下さい。
二年に一度、チェコ最大の人形劇フェスティバルも主催しています。次回は2020年6月の予定です。

チェコ最大の人形劇フェスティバル「スクポヴァ・ピルゼン」の紹介映像
https://youtu.be/hiUMBtgjzJI

 

他にも、
リベレッツのナイブニ劇場」www.naivnidivadlo.cz
フラデツ・クラーロヴェーのラク劇場」www.draktheatre.cz
プラハの「ケーキ&パペット」http://www.buchtyaloutky.cz/

プラハのオルタナティブ・シアター「中庭のアルフレッド」http://www.alfredvedvore.cz/cs/
などなど、チェコには本当に、芸術性とエンタテインメント性の高いプロ人形劇団がいくつもあります。旅行の際は、事前にウェブサイトで上演予定をチェックしてみて下さいね。

観光ガイドブックに載っていない、ほんとうにすぐれた人形劇をぜひ見に行って下さい! そして、気に入った劇団があれば、友達にもどんどん教えてあげて下さい!

 

イジー・トルンカの人形たち

ところで、この前チェコに行ったときに、イジー・トルンカの大回顧展(GASK https://gask.cz/cs にて今年10月開催予定)の準備も手伝ってきました。
日本でイジー・トルンカはアニメやイラストの分野で紹介されていますが、絵や彫刻でも素晴らしい作品を残しています。
今年開催される展覧会は、イジー・トルンカの子どもたちや国立博物館が所蔵する絵画、彫刻、人形の傑作を200点近く展示する、過去最大規模の回顧展とのこと。芸術家としてのイジー・トルンカを再発見する、またとない機会になりそうです。

私が手伝ったのは、この展覧会で展示する映像作品制作。イジー・トルンカの息子のホンザさん(写真左)が監督となって、イジー・トルンカの人形を用いて映像作品に仕立てます。これがまた、こだわりと試行錯誤の連続、とっても可笑しい現場でした。
展覧会の準備は今もまだ続いています。どうなることやら・・・・・・ 乞うご期待!

 

(イジー・トルンカの息子ヤンさん、トルンカの人形のポージング中。その後ろでは、人形遣いが台の上に寝そべって人形操作の準備中。)

 

日本で見られるチェコ人形劇?!

実は日本にも、チェコ人形劇をみることができる場所があります。新宿南口から歩いて5分ほどにある「プーク人形劇場」http://puk.jp/です。
ここでは毎年、定員100名の小さな空間で、すぐれた海外人形劇の公演が行われています。都会のエアポケットのように、採算度外視で、つねに海外人形劇の最先端を地道に日本へ届け続けてきたおそるべき場所です。

プーク人形劇場は、末廣亭・ゴールデン街と並んで新宿が誇る文化的拠点だと私は思っています。今年招聘するのはオランダの劇団ですが、2020年には上でふれた「アルファ」のすごく面白そうな人形劇を招聘する予定になっています。チェコ人形劇ファンの方は、ぜひ「プーク人形劇場」にも遊びに行ってみて下さい。入り口には、新宿一おいしいエスプレッソを出す、小さな小さなカフェもありますよ。

(ピルゼンの人形劇博物館)

 

山口遥子(東京藝術大学専門研究員/早稲田大学非常勤講師)

1984年東京生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了、博士(美術)。現代人形劇、20世紀人形劇史、18世紀ドイツ美学。
2017年から「こどもと音楽の未来をつくる」(https://okowaokowa.tumblr.com/)主催。
2019年10月27日(日)、東京藝術大学にて「ファウストの文化史」と題したチェコ人形劇関連の国際シンポジウムを開催します。詳しくは下記Twitterやブログをご参照下さい。

Twitter:https://twitter.com/Doppelzimmer_

欧州人形劇のブログDEKU:https://deku.webnode.jp/

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この記事を書いた人

チェコセンター東京

チェコセンターは世界22ヶ国24都市においてチェコ文化の普及につとめているチェコ外務省の外郭団体です。2006年10月にアジアで第1号のチェコセンターとして、駐日チェコ共和国大使館内にチェコセンター東京支局がオープンしました。

以来、絵画、写真、ガラス工芸、デザインなどの作品の展示や、映画上映会、文学、音楽、経済などのイベントを開催しチェコ文化を紹介するほか、チェコ語教室も開講しています。また、その他のチェコ文化関連イベントへの助言、協力も行っています。

イベント情報はニュースレターでも配信していますので、チェコ文化にご興味のある方はぜひウェブサイトからご登録ください。お待ちしております!

担当カテゴリ:文化と歴史を学ぶ