撮影・Tomáš Bazika

ぷらは物語+チェコのオーケストラに入って感じること

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\\新連載開始// 昨年よりプラハに留学中の豊島美波さんの留学体験記が本日より新連載開始です!大学生活やチェコ旅行のことなど、現地のリアルな情報を届けて頂きます♪

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ドブリーデン!! 初めまして、プラハのカレル大学で勉強中の修士2年豊島美波と申します。
昨年の9月よりこちらの哲学部チェコ文学・比較文学科というところで、チェコ語とチェコ文学を専攻しています。留学して9か月が過ぎ、ようやくチェコでの生活やチェコ語のコミュニケーションにも慣れてきましたが、それでも日々出会いや驚きの連続です。

私がチェコという国に興味を持ち始めたのは11年前のこと、中学2年生の時でした。部活のオーケストラで演奏したドヴォルザークの交響曲にいたく感動し、色々と聴きあさっているうちに、なぜか彼の音楽がとても懐かしいもののように感じられました。
それからチェコという国に関する本や雑誌、テレビ番組を欠かさずチェックするようになり、高校のときに初めてチェコに旅行で来て、プラハの街や車窓から見える一面のひまわり畑を前にしたときは、胸がいっぱいになったことを今でも覚えています。

さて、今日は、そんな私とチェコを結びつけたきっかけでもあるオーケストラについて、お話したいと思います。

オーケストラの活動

私は現在、カレル大学・プラハ経済大学の合同オーケストラに所属しています。
学生だけでなく卒業生も在籍していて、セメスターにもよりますが、現在は団員の8割以上がチェコ人・スロバキア人です。カレル大学の講堂であるカロリヌムや、プラハとその近郊の教会、カルルシュテイン城、大学主催のダンスパーティー、映画祭など、様々な場所から依頼されて、年に10回以上コンサートがあります。

コンサートは合唱団と合同の機会が多く、プロの歌手の方がソリストとして共演することもあります。曲目は、ミサ曲や民俗音楽、映画音楽、現代作曲家の初演など、多岐にわたります。時には曲目やコンサートの数が多すぎて練習の回数が足りないこともありますが、これだけ場数を踏んでいるだけあって、本番の演奏の集中力は目を見張るものがあります。

また、教会の響きの中での演奏は、おのずと神聖な気持ちにさせられて、普段の練習以上にいい音楽ができるように思います。(といっても、多くの教会には冷暖房がないので、クリスマスミサのシーズンは、コート着用でも手がかじかんで、実際体力的にはつらいです…!)

カロリヌムにて。撮影・Tomáš Bazika
国際映画祭Febiofestのオープニングセレモニーにて。市民会館の前で演奏しました

また、コンサートの後にはビュッフェがあることも。カレル大学の主催行事の時は、ほぼ毎回おいしいワインやビール、軽食がふるまわれます。また、国際的な映画祭のプログラムの一環として、プラハの市民会館の前で演奏したとき(これは屋外で3月のプラハだったのでまだまだ寒かったです…)は、市民会館のホールでのビュッフェに加えて、映画のチケットをいただきました。

先日はウィーンのアルメニア・カトリック修道院での演奏があり、修道院のアルメニア民族衣装のコレクションや所属図書館の見学など、なかなかウィーンに行っても得られない体験をさせてもらいました。こんな風に、コンサートに付随して様々な体験ができるのも魅力のひとつです。

同じヴィオラのメンバーと。演奏後のピルスナー・ウルケルは最高です!

練習の後のホスポダトーク

そして、毎週の練習の後は、チェコの居酒屋・ホスポダへ行くが定番。楽器も年次もごちゃまぜで、ビール片手に話に花が咲きます。お酒が入ると話のスピードに拍車がかかるチェコ人たち。

あまりの速さにほとんど話についていけないこともしばしばですが、学校ではまず教わらないようなスラングや口語表現を学べる場でもあります。実は、私たち外国人が学校で習うチェコ語はとてもかしこまっていて、実際にチェコ人・スロバキア人同士の会話で使われるのは全く別のレイヤーのチェコ語。

まだ5歳児くらいのレベルでしかチェコ語を話せなかったとき、どこかで覚えてきたスラングを披露したらとても喜ばれた記憶があります。仕事や学校の話、今日の練習について、今週あった出来事など、ビールを手にしたチェコ人の手にかかると、アネクドートの嵐です。

そんな中で、チェコ社会のコミュニケーションについても学ぶことがあります。たとえば、「本当に仲良くなろうと思ったら、相手と自分の価値観の違いをはっきり言った方がいい」ということ。これはチェコに限らず欧米の文化圏全体に言えることかもしれませんね。これはある人にお気に入りの動画をいろいろと見せられて、私が大人しく観ていたときに教えられました。「興味がなければ話をそらしたりはっきり見たくないと言っていいし、むしろなぜ自分が好きではないのか、理由をきちんと説明するところから仲良くなれる」のだそうです。

確かに、友達と映画やイベントを観に行って、今日のは退屈だった、などと皆憚りなく感想を言うのに驚くことがありますが、評価が違ってもそこから議論するのが、相手と向き合う一歩になります。また、年齢に応じた距離感について。チェコ語には、日本語の敬語にあたる話し方(ヴィカーニーと呼ばれます)がありますが、年齢がいくら違っても、同じオーケストラの仲間や学校の先輩後輩、職場の同僚の間でヴィカーニーを使うことは稀だそうです。10歳以上年の離れた団員と初めて話したときにヴィカーニーを使って、後からとても距離をとられた感じがして寂しかった、と言われ、反省したことがあります。年齢がいくら違っても、同じ組織・立場でひとつのことを一緒にやっている場合は、話し方で上下関係をつけるのはおかしい、という感覚のようです。

言葉だけではなくて、コミュニケーションの仕方については、学校の授業に出てもなかなか知ることができないので、こういったホスポダトークはとても勉強になります。

チェコの生活と芸術

最後に、チェコの生活全般に言えることですが、芸術の場が日常生活のとても身近なところに根付いていると感じます。私たちはアマチュアのオーケストラですが、様々な機関から招待を受けて演奏するので、演奏の場を得るためにこちらがお金を払ったことはありません。それくらい演奏の機会が豊富にあるからです。

また、私たちのコンサートに限らず、教会や屋外で、無料のコンサートが頻繁にあり、子供からお年寄りまで気軽に聴きに来ています。チェコフィルハーモニーや国立劇場のオペラなど、プロの舞台でも、席にもよりますが2000円以内でチケットが買える(26歳以下の学生は更に半額になります)ので、平日の学校や仕事帰りに月に何度も観に行くことができます。また、これらの場所では子供向けのプログラムも多く用意されていて、幼稚園や小学校の頃からコンサートに親しんでいます。

そして、公共交通機関や街中の広告で、コンサートやオペラ、演劇、展覧会などの占める割合がかなり高いです。このように、芸術の場が日常生活から切り離された特別な場ではなくて、気軽に楽しめる位置にあるというのは、チェコの大きな特徴のひとつだと思います。旅行やワーキングホリデー、留学などでチェコを訪れる際には、ぜひ芸術を楽しんでみてください!

街の広告は洗練されたデザインのものが多いです。
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この記事を書いた人

豊島美波

豊島美波
1994年神奈川県生まれ。東京大学教養学部地域文化研究科卒、現在人文科学系研究科修士課程所属(現代文芸論研究室)。2018年9月より、チェコ政府奨学金にてカレル大学に留学。14歳の時にドヴォルザークの音楽に感銘を受け、チェコに興味を持ち始める。学部時代はロシア語を専攻し、学部4年生より本格的にチェコ語の勉強を始める。専攻はチェコの20世紀の文学で、現在チェコの学生に交じって修行中です。
minamitoyo0414@gmail.com