チェコ第二の街、ブルノの魅力

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快適で活気のある街、ブルノ

チェコも11月に入って秋が深まり、雪も散らつくなど冬がやってきております。本来であれば寒さが始まるこの季節。今年の秋は大変幸運なことに、暖かい日が続く気候現象、通称Babí léto(バビーレト)に恵まれ、気持ちよく過ごすことができました。今回は冬の寒さが到来する前に、「チェコ第二の街」ブルノを訪ねて参りましたので、その魅力について紹介したいと思います。

ブルノはチェコ共和国南部モラヴィア地方の中心都市で、人口は45万人ほどの街です。まずは街の雰囲気から説明いたしますが、何といっても住みやすそうな感覚を持ちました!プラハとは異なり、観光客でごった返すことはなく、人の多さは丁度良い印象を抱きましたし、法外な料金で観光客を騙すような業者も見当たりませんでした。公共交通機関についてはトラムやバスの交通網がしっかりと整備され、移動に苦労することはありません。都会ではありますが、都会の喧騒を感じることがなく、中規模の街に住みたいという方にお薦めしたいと思います。
また、プラハは歴史や伝統のある中世の街というイメージですが、ブルノはモラヴィア地方の中心都市で歴史もある一方、そこに現代の新しい文化が色付いている街でもあります。例えば、街の至るところに現代アートがあり、大学生や留学生も多く、街に若さや活気を感じました。

ブルノのキャベツ市場広場

ムハ(ミュシャ)展覧会

今回、ブルノを訪れた一番の理由はムハ展覧会を見学するためでした。ムハと聞いて誰か想像するのは難しいかもしれませんが、アルフォンス・ミュシャと言えば通じるかもしれません。世界を代表するアールヌーヴォーの芸術家で、チェコ語での本名はムハと言います。日本ではフランス語読みのミュシャと呼ばれていますが、これは彼が活躍し始めたのがパリであったことに由来しています。

ブルノでは2018年の5月から年末まで、ムハの展覧会が開催されており、テーマは「二つの世界」です。簡単に解説すると、ムハの作品は大きく分けて二つあり、「パリで大好評だったポスターの時代」と「スラブの世界を描いたスラブ叙事詩の時代」に分類されます。今回の展示会では、この二つの時代を同時に見学することができるため、二つの世界というテーマ設定になっています。
ムハは日本でも大人気で、2017年に東京の国立新美術館でスラブ叙事詩の展示会が開催されたのは記憶に新しいのではないでしょうか。私も六本木まで足を運んで展示会に顔を出しましたが、あまりの人の多さに驚愕し、ゆっくりと見学することはできませんでした。そこで、ムハの作品を落ち着いて見学したいと思い、ブルノの展覧会に行って参りました。

日曜日の午前中に展覧会を訪れましたが、人は東京ほど多くなく、ゆっくりと存分にムハの作品を楽しむことができました。興味深かったのは、ムハの作品を二つの時代でテーマごとに分けつつも、両作品には共通点を見出すことができるという解説でした。ポスターの中では容姿端麗な女性たちやアールヌーヴォーのモチーフがムハの代名詞と言えるのですが、スラブ叙事詩ではスラブ人の独立や解放、時にはスラブの人々がいかに近隣諸国から攻められてきたかがテーマで、両者は根本的に異なる趣旨で描かれています。しかし、スラブ叙事詩に登場する女性の姿や振る舞いは、ムハがポスター時代に描いていた様子と一致することがあり、この視点は二つの時代をテーマとして取り上げるからこそ、浮かんでくる発想だなと勉強になりました。ムハにご関心がある方はぜひ年末までに展覧会に訪れてみてください。なお、展覧会では通常写真撮影は禁止されており、今回は許可を得て写真撮影しております。

スラブ叙事詩
パリ時代のポスター

ユルコヴィッチ邸(Jurkovič Villa)

ブルノには、新しい文化や雰囲気が根付いていると冒頭で述べましたが、それは建築にも影響されています。例えば、ブルノにある世界遺産登録のトゥーゲンハット邸は現代建築の中でも最も美しい建築とされ、チェコとスロバキアが1992年に分離された時に調印式が行われました。今回は、ブルノの現代建築の中でも、まだ日本人にはあまり知られていないユルコヴィッチ邸を見学してきましたので、こちらを説明したいと思います。
ユルコヴィッチ邸は1906年に建てられた建築家のドゥシャン・ユルコヴィッチの自宅で、現在ブルノでも最も価値の高いアールヌーヴォー建築物の一つに数えられています。ユルコヴィッチの建築作品は、20世紀に主に建てられ、チェコ国内でも至るところで見つけることができ、その豪華で創造的な建築には感動させられます。一方、ユルコヴィッチ邸は、建物の美しさだけでなく、オーストリア・ハンガリー帝国からの独立を意識した独自性と庶民にも適用可能な機能性を両立した建築様式となっております。

写真を見ての通り、独特な外観を持つユルコヴィッチ邸は、内部に入るとさらに驚かされます。20世紀当時は、水道や電気は庶民が簡単に手に入るものではなかったのですが、ユルコヴィッチは井戸から水を簡単に引いてくる仕組みや発電機を用いて電気を通す仕組みを庶民にも適用できるように図面を作成し、自宅に導入しました。ユルコヴィッチ邸の近隣は、この建築様式を模倣した家が立ち並んでいます。一番印象に残ったのは、「チェコの建築はいかにして自然と共存させ、景観を保つか、とりわけ上下の起伏が激しい内陸国で丘の上に自然の景観を損なわないように家を建てるかが大事だ」という解説でした。確かにプラハでも丘と共存して多くの家が建てられおり、まるで自然と共に住んでいるかのようなプラハの景色を楽しむことができます。チェコの現代建築や家と自然との共存にご興味がある方はぜひ訪れてみて下さい!

ユルコヴィッチ邸
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Bio

齋藤 直哉

齋藤 直哉

東京都出身。学士課程では法学部に所属し、国際政治を学ぶため、フランスのリヨン政治学院にて長期留学を経験。大学卒業後は総合商社に入社し、自動車の部署に配属されて、法人営業やトレーディング業務を担当していたが、チェコへの大学院留学を決心し、約1年半で退職。大学院への留学までは、文部科学省官民協働海外留学創出プロジェクト(通称トビタテ)にて5ヶ月間インターンとして、留学奨学金の説明や広報を各国大使館宛に行っていた。現在はカレル大学人文学部歴史社会学科修士課程に在籍している。趣味は海外旅行で、特に大自然や建築様式、歴史遺産に興味を持っている。